俺が使っているのは主にこっちの図書館だ。
校舎の外れに取って付けたように建っているこの図書館は、学校のパンフレットによると明治時代に有名な建築家の設計で建てられたナントカ様式の建物で、県の重要文化財に指定されているって話だ。
そんな大層な建物を解放して使い続けていても良いのか俺には分からないけど、理事長は国の重要文化財になっても使い続けると豪語しているって聞いた。
それでも昔の、この学校が旧制高校として創立された時代から建っている図書館はそれなりに大事にされているらしくって、中等部と高等部の校舎は過去何度となくこの図書館を中心に建て直されたというコトだ。
でも今では校舎に取って付けたような状態にあるし、西側の端に建っているせいか昼を過ぎるまで薄暗く、数年前に建て直されたらしい大学の明るくて綺麗な図書館とは対極なまでな地味さなんだよな。
それでも俺は、この図書館が好きだったりする。
石造りの図書館は空調が効いていなくてもどこかひんやりとした空気が漂っていて、静かというよりは静寂という言葉が似合っているような、どこか外界と遮断されているような雰囲気が堪らなく好きで、足を向けるのはこの図書館ばかりだった。
ルキには以前、陰気で辛気臭いから行く気になれないと一刀両断されたんだけどさ。
だから、ここに居れば例えルキが図書館に行く用があったとしてもバッティングするコトはないと思う。
「……」
入り口のドアノブを回して中に入ると、思った通り誰もいない。
それどころか司書の先生もいなければ、貸出コーナーのカウンターに図書委員の姿も無かった。
もっとも、司書の先生はいつも朝来て鍵を開けたら後はほとんど姿を見せないようなのだけど、図書委員までいないのは珍しいよな。
いつもはすぐに席に着いて夏休みの宿題を始めるんだけど、今日は何だか図書館を独り占めしたような気分で、そのままグルリと本棚の間を縫うように歩いてみた。
専門書や学術書の棚なんて普段は近寄りもしないけど、重厚な装丁の本を一冊手に取ってみる。
こんなの読んでたら、きっと頭が良さそうに見えるだろうな。
が、開いた本は細かい文字がびっしりと並んでいて、とても読めるような代物じゃない。
何が書いてあるんだか、まったく理解できない。
つか、これホントに日本語?
大人しく本を元の場所に戻す。
それから、見るともなしにたくさんの本の背表紙を眺めながら歩き回って、最後に純文学の棚に辿り着いた。
そう言えば読書感想文の宿題も出てるんだよな。
「今年は何にしよう…」
誰に言うとでもなく呟いて、適当に本を一冊棚から抜いた。
毎年、感想文の宿題には悩まされてる。
本を読んで何を感じたか、なんて何でわざわざ他人に教えなきゃならないのかが、そもそも分からない。
なんだか、他人に心の内を覗かれてるようで気持ち悪いじゃないか。