けれど、リビングと廊下を隔てるドアのノブに手を掛けた時、結有の動きが止まった。
中から話声が聞こえて来たからだ。
(誰か来てるのか…)
音を立てないようソッとドアを開けて中を窺おうとした時、こちらを向いてソファに座っていた祥悟とバチンと視線がかち合った。
「なんだ、来てたのか?」
狼狽える結有に向かって祥悟が声を掛けたせいで、椅子代わりのオットマンに腰かけ背中を向けていた客らしきスーツ姿の男がつられたように振り返る。
その顔を見て、結有は思わず目を瞠った。
(うわっ、何この人…すっげぇ可愛い…)
振り向いた男は、普通にしていても見開いたかのように大きな黒目がちな瞳を結有に向けている。
小さな顔に大きな目。 薄く開いた唇はふっくらとしていてリップクリームでも引いたような柔らかいピンク色をしていた。
スーツを着ていなければ男とは気づいてもらえないのではないかと思うほど、どこか少女めいた顔立ちに思わず目が釘付けになる。
男は結有に軽く会釈すると、すぐに祥悟に向き直った。
「それじゃあ、納期の件は課長から改めて連絡するそうなんで」
「ん、あぁ、助かったよ。 わざわざ悪かったな」
結有から視線を外した祥悟が立ち上がると、男も立ち上がる。
「祥悟さんの大雑把さには慣れてるし、工場に金型を届けに行くついでだから。 でも、もう企画書を置き忘れるなんて止めて下さいよ」
どうやら祥悟の仕事の関係者らしい。
会話の内容からそう推察したが、ところどころ親しい関係を思わせるような口調を感じる。
単なる仕事絡みの相手ではないのかもしれない。
(若そうに見えるけど、社会人なんだよな?)
可愛らしい顔立ちにはスーツよりも、学校の制服の方が似合いそうな気がした。