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祥悟への想いを認めたものの、結有はその後も気持ちを伝える事無く日々を過ごしていた。
夏休みに入り、祥悟の部屋へ行く回数や時間も以前よりずっと増えたが、想いを抑えるコトに結有は何の辛さも感じていなかった。
今の二人の関係に十分満足していたからだ。
祥悟の部屋に上がり込み、当たり前のように好き勝手に過ごす。
二人はずっと前からの友人同士のようにたわいない話をし、時には互いがまったく違うコトをしながら、時には二人で何も話さずテレビの前に座っていたり、干渉し過ぎず、放置し過ぎず、気楽で居心地のいい距離感に結有は何の不満も見いだせない。
胸の内に隠した想いなんて告げなくても、ずっとこのまま祥悟との関係が変わらず続けば、それだけでいいと思っていた。
「あれ? 開いてる…」
いつものように思い立った結有が祥悟の部屋を訪れたのは、茹だるような暑さとジリジリと焼けるような日差しがようやく翳りを見せ始めた午後のコトだった。
インターフォンを押そうと伸ばしかけた指を止めると、視界に入って来た玄関ドアの僅かな隙間に目を移す。
「不用心だなぁ」
何かにつけて完璧に見える祥悟だが、実は意外と大雑把なところがある。
一見、綺麗に片付いている部屋も引出を開ければ中はごちゃごちゃだし、掃除は四角い部屋を丸く掃く≠ニいうのを地でいっている。
当然、洗濯の別け洗いなどしたりしないから、ついこの間は買ったばかりのジーンズと他の物を一緒くたに洗濯機に放り込むという一人暮らしにあるまじきミスを犯した。
結果、お気に入りだった白いシャツをブルーに染めてしまい、部屋を訪れた結有に萎れた笑顔を見せていた。
ベランダで風に靡く、ブルーに生まれ変わったシャツを渋面で見つめていた姿は忘れられない。
したがって鍵のかかっていない玄関ドアなど不用心ではあっても、祥悟の大雑把さの中では可愛い方の部類なのだ。
半ば呆れながらノブを掴む。
「っと!」
鍵のかかっていないドアを開いて中に入ろうとした途端、足元の何かにつまづいた。
見れば、玄関先に重そうなアタッシュケースが置いてある。
どうやら、これが邪魔してドアが閉まり切っていなかったようだ。
「祥悟さん…の?」
とりあえずドアを閉めるために移動させようと持ち上げると、想像以上に重い。
一体何が入っているんだと思いながら、数センチだけ中へとずらすと、ドアがバタンと音を立てて閉じた。
部屋まで運んでやるべきか一瞬悩んだ結有だったが、先程の重さを考えるとすぐに止めておこうと放置を決める。
そのままアタッシュケースのコトは忘れるコトにして、何のためらいもなくリビングへと向かう。