小柄で華奢な肩の上にフワフワした巻き髪を下ろした可愛らしい子だ。
モロ、多田さんの好みのタイプにヒットしてる。
「そうかぁ、佑香ちゃんは入社2年目なんだぁ」
語尾も鼻の下も伸びてる多田さんは気持ち悪くて見ていられない。
ハチミツを前にした熊のようにデレた多田さんから逸らした視線の先に、生春巻きを見つけて小皿に取った。
ついでにその隣の皿のアンティーブに白身魚のマリネのようなものが乗った料理を取ろうとしたところで、俺の箸と千早が延ばした箸がぶつかりそうになる。
「あ、悪ぃ…っ…」
つい普段の調子の砕けた口調で謝ってしまい、慌てて口を噤んだ。
チラリと隣を見ると、幸いなコトに多田さんは三波さんと話すのに夢中で、俺の声など耳にも入っていない様子でホッとする。
直後、プッと小さく吹き出す音に千早を見ると、笑いを堪えながら箸を引っ込めた。
「お先にどうぞ」
「あ…いえ、笹本さんからどうぞ」
急いで箸を引っ込めてそう言った時、向かいの席から三波さんが声を掛けて来た。
「取りましょうか?」
言うが早いか、テーブルに並んだ料理を手際よく小皿に取り分け、おもむろに千早の前に差し出す。
「三波さん、こういう時は得意先の人から渡すものでしょう?」
優しい口調で千早が咎めると、三波さんは慌てて「そ、そうですよね」と小皿を持った手を多田さんに向ける。
嬉しそうにそれを受け取る多田さんに同情を感じるのと同時に呆れてしまい、苦笑しそうになった。
今ので何も気づかないなんて、幸せ過ぎる多田さんを気の毒に思う。
同じように取り分けた小皿を俺に渡そうとする三波さんに、礼を言いながらその顔を見つめる。
この子は千早のコトが好きなんだ。
「あの…私の顔に何か付いてます?」
「…いいえ、三波さん、可愛いからモテるだろうなと思って」
途端に顔を赤くして俯く。
ヘテロの男は、女の子のこういう仕草に感じる物があるんだろうな。
「っ!」
俺にとってはライバルである三波さんの顔を見つめていたら、いきなり掘りごたつ式に下がった床で足を踏まれた。