そのまま捻らず考えれば、多田さんと千早が合コンの約束をしたというコトになる。
思わず「それは無いだろ」と自分にツッコんだ。
千早が合コンのセッティングなんてするとは思えない。 それとも多田さんに無理矢理捩じ込まれたんだろうか?
合コンしないと取引中止するとか言って…。
「……」
多田さんなら言いかねない。
得意先の権限を振りかざして合コンを要求するなんて、多田さんらしくて呆れる気にもなれないな。
「挨拶回りに来た井岡と何で合コンなんて話になるんですか? 課長に知られたら怒られますよ」
「別に、俺が言い出したわけじゃねェよ。 今日、笹本さんがアシスタントの女の子連れて来ててさ、これがすっごい可愛い子だったから今度飲みに行きましょうって誘っただけ。 そしたら笹本さんがお前も誘って4人で行こうって言うから」
4人?
千早とアシスタントの女の子と多田さんと俺の4人?
「それ、合コンって言いませんよね?」
「俺的には合コンなの。 井岡の三波さん、俺のタイプでさ。 だから、俺と三波さんは合コン。 お前は笹本さんの相手してろ。 三波さんにはちょっかい出すなよ?」
なるほど。
ようやく意味が理解できた。
つまり、多田さんは千早が連れて来たアシスタントの子を得意先の立場を利用して口説こうとしたわけだ。
それを回避するために千早が4人での飲みを提案したんだな。
そんな馬鹿馬鹿しいコトに巻き込まれるのは嫌だったが、千早と会えるのは単純に嬉しい。
以前、千早の自宅に行った夜以降も、俺達は変わらず会っていた。
本当の自分を偽ったまま片想いを続けるコトがしんどくないと言えば正直なところ嘘になる。
千早と会った後はいつも気分が落ち込むから、極力 自分から千早を誘ったりはしないようにしていた。
それでも千早に会いたいという気持ちは抑えられなくて、誘われれば断るコトなく会いに行く。
千早の気分で呼び出され、千早の都合で逢瀬を重ねる。 自分がセフレでしかないと俺自身に忘れないようにさせるためには、そのくらいで丁度いいと思ってる。
だから俺は多田さんの「誘いという名の先輩命令」の飲みを、他のコトならいざ知らず、今回だけは甘んじて受けるコトにしたのだった。
××××××××
多田さんの言うところの合コンは繁華街の和風居酒屋の個室で、ただ一人テンションの高い多田さんの乾杯の音頭で始まった。
俺の向かいに千早が座り、その隣に多田さんが目を付けたらしい井岡の女子社員が座るという形で4人で杯を合わせる。
その子は三波佑香≠ニ名乗った。