Novel Library 3

□『 SLOW LOVE 』 vol. 5
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 『 SLOW LOVE 』 vol.5


 それは突然 振って湧いたような話だった。

「相沢、今日の就業後 空いてる?」

 喫煙コーナーで一息入れようとエレベーターが上がって来るのを待っていた俺は、到着したエレベーターの扉が開いた所で鉢合わせした多田さんから開口一番そう聞かれた。
 カゴから降りるより先にそんなコトを言い出すのは、間違いなく飲みの誘いだろうと聞くより先に理解する。
 分かってはいたが、自分本位の塊の多田さんに抗議の意味を込めてすぐには返事をしない。

「いきなりなんスか?」

 けれど多田さんは俺の質問なんて完全スルーで自分の話を推し進めてきた。
 さすがは購買部のMr.エゴイストだ。

「空いてるの? 空いてないの? どっちだ?」

 カゴから降りるなり大きな体で迫るように歩み寄って来られたために、つい頭の中で熊の撃退法を思い出しながら後ずさる。

「あ、空いてます…けど」

 なんだろう?
 今日の多田さんには気迫というか、鬼気迫るものを感じる。

「よしっ! じゃあ、今日は井岡と合コンな」

「はぁ?」

 多田さんの言っているコトの意味が理解できずに、思いっきり眉を顰めて聞き返す。
 今、井岡製作所と合コンするって聞こえたような気がするんだけど?

「あの、意味が解りません」

「なんで? 言葉通りの意味しかないだろ?」

 それが分からないから聞いてるんだろ?
 まず、取引先と合コンするのが分からない。
 商取引がある所と合コンなんてするか?
 それに考えたくは無いが、多田さんは誰と合コンの約束をしたんだろう?
 多田さんが井岡の担当だと言うのは良いとして、井岡の窓口は千早のはずだ。
 
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