香月だって本来は他人の世話を喜んで焼くようなタイプではない。
香月の好意の上に胡坐をかくつもりは無いが、今の状況はそう取られても仕方ないだろう。
年上なのに頼りなく、甲斐甲斐しく世話を焼いてやれるほどマメでもない。 こんな自分のどこを見て香月が好きだと言ってくれるのか、まったく分からない。
そのうえ今回は、意図的にではないものの約束を破った果てに嘘まで吐いてしまっている。
愛想を尽かされてしまっても何の不思議もないはずだ。
考えているうちに、伏せた顔がテーブルにめり込んで行くような気がするほど落ち込んでいく。
離れたくない。 こんなにも香月が好きなのに。
自分勝手な感情だと分かっていても、それを止めるコトなんてできやしない。
こんな馬鹿馬鹿しいすれ違いで、香月を失いたくはない。
そう香月への想いを強く感じながらも、考えたくないはずの事実に思考は動く。
香月のために何一つしてやれない自分が、このまま香月の傍にいるコトに何か意味はあるんだろうか、と。
愛とか恋とか、そんな不確かなものだけでこの先ずっと香月を縛り続けるコトができると思うほど拓は若くはない。
日々を積み重ねる生活の中に、自分自身の意味を見出そうとするのは香月の傍にいるための理由が欲しいからだ。
この先も想いだけでは約束できない香月の未来が欲しいから、自分は香月の傍にいても良いんだと思えるだけの自信が欲しい。
「俺、バカじゃないか?」
いきなり拓は総ての思考を否定するように小さく自嘲う。
どんなに自分が香月を好きでも、傍にいても良いと思えるだけの理由を見つけても、香月がそれを必要としてくれなければどうにもならないのだ。
顔を伏せたまま身じろぎもせず、手の平を握りしめる。
結局、拓にできるのは、いつ帰って来るかも分からない香月を待つことだけだった。
××××××××
「ん…」
ふと拓が気づいた時、降りしきる雨音に混じって何かが聞こえた。
ローテーブルに突っ伏したまま、いつの間にか眠ってしまったらしい。
ノロノロと顔を上げると、室内は暗く目が慣れない。
(こんな所で泣き寝なんて、子供かよ…)
重く腫れぼったい瞼を擦りながら辺りを見回す。
起きしなのぼんやりと霞んだ頭のまま明かりをつけようと立ち上がった時、視界の隅に何か光る物が入ってきた。