その時間帯は拓がショッピングモールに居た時間と重なる。
嫌な汗が背中に浮くのを感じながら拓は香月の言葉を待ったが、いつまで経っても香月は黙ったままだった。
それだけで香月が何を言いたのか理解した拓は、何からどう話せばいいのか説明のための言葉を必死に探す。
プレゼントのコトを隠したくてとっさに吐いた小さな嘘が、まったく別の意味を持ってしまったコトを痛感したが、今となってはどうするコトもできない。
とにかく香月の話を聞かなければ。 あの場所で、何をしていた拓を見たのか聞かなければ、何も説明のしようがない。
けれど、しばらくの間を置いて香月が話しだしたのは、最悪の状況を示す一言だった。
「何でアイツと会ってたの?」
直輝と一緒にいる所を見られたのだと知って、拓の動揺は激しくなる。
直輝とは会わないと約束していただけに、嘘を吐いてまでこっそり会っていたと誤解されても仕方ない状況だと悟った。
それでも誤解は誤解なのだから、ちゃんと説明すれば分かってもらえるだろうと拓は言葉を探し続ける。
「俺と約束したよね? 絶対に会わないって…なのに、カフェでデートしてるみたいだった…」
「違うっ! …直輝とは偶然――」
言いかけた時、いきなり床に押し倒された。
手にしていたトマト缶が、ゴトンと音を立てながら床を転がって行く。
強か打ち付けた背中の痛みに呻きながら、とっさに落ちた缶詰のせいでフローリングに傷が付いたのではないかと、この場にそぐわないどうでもいいようなコトが頭を過る。
缶詰の落ちた辺りに視線を向けると、顎を掴まれ顔ごと向きを変えられた。
「っ…」
拓の体に馬乗りになった香月は、顎を掴んだままジッと拓を見下ろしている。
こんな香月は知らない。
今まで見たコトがない香月を拓が驚いた顔で見上げると、眉を寄せ、怒っているようにも泣き出しそうにも見える顔で黙って拓を見下ろし続ける。
常に余裕の無い拓とは違い、年若いくせに落ち着きはらった香月は自分の感情をコントロールするのに長けている。
だからこんな風に、感情を抑えきれずに余裕を失くした香月なんて見たコトがない。
3年前、拓が別れ話を切り出した時ですら、香月は冷静であろうと自分をコントロールしていた。 それなのに、今ここにいる香月には僅かな冷静さすら感じられない。
「裕人…」
自分の不用意な言葉が誤解を招いたコトを十分に理解していた拓は、何とかそれを解こうと言葉を探す。
それでも隠したいコトがあるだけに、総てを話さずに誤解を解く方法は簡単には思いつかなかった。