「どこに行ってたの? 今日、出かけるなんて言ってなかったよな?」
香月に取られた手首は首を傾げたくなるほど強い力で握られている。
「どこって、買い物だよ。 見れば分かるだろ?」
置き放しの買い物袋に視線をやりながら拓が答えると、香月が顔をのぞき込むようにして聞いてくる。
「それだけ? 他にはどこにも行ってない?」
「…行ってないよ」
一瞬、ショルダーバッグの中に潜ませてある誕生日プレゼントの包みを思い浮かべたが、話すわけにはいかないと拓はとっさに嘘を吐いた。
罪悪感を感じないでもなかったが、一人でショッピングモールに出かけたコトを追及されたら、つい口を滑らせる可能性が高い。
せっかく香月に内緒でプレゼントを用意したのに、誕生日前にバレてしまっては意味が無い。
「何でそんなコト聞くんだよ?」
これ以上何か聞かれる前にと、拓は逆に香月に質問する。
香月は拓の手を離すと「別に…」とだけ言って立ち上がった。
そんな香月を不思議に思わないわけではないが、自分に隠したいコトがある以上この話は早めに切り上げた方がいいと拓は買い物袋を手にキッチンへ移動する。
「夕飯作るから、裕人は先に風呂入ったら?」
食材を冷蔵庫にしまいながら、夕飯のメニューを考える。
思いの外、香月が早く帰って来たからすぐできる物がいいだろう。 冷凍しておいたハンバーグと野菜で煮込みハンバーグでも作ろうかとトマト缶を手に立ち上がった時、背後から香月に抱きしめられた。
「どうしたんだよ…」
香月の行動はいつも突然だけれど、今日はどこか変だと思い振り返ろうとすると、抱きすくめる腕の力が強くなり身動きできない。
やっぱり具合が悪いのかと訝しんだ時、耳元で香月の抑揚の無い声が聞こえた。
「今日、3時限目が休講になってさ…友達と暇つぶしにショッピングモールに行ったんだ」
ドキンっと拓の心臓が大きな音を立てた。