4.
梅雨の晴れ間は短く、夕方になって空は一転して重暗い曇天となった。
干しっぱなしの洗濯物を気にしながらも、ショッピングモールからの帰り道、拓はなんとなく浮足立って歩いていた。
香月の誕生日プレゼントに選んだチョーカーは、拓の想像以上の仕上がりだった。
ブラックスターとカーネリアンはそれぞれが半円形に加工されてシルバーのペンダントトップに乗せられていて、派手過ぎず、地味過ぎず、理想通りの物になっていた。
十字の星が浮き上がったブラックスターの左斜め下に配置されたカーネリアンは小さな衛星のようで、まるで地球と月のようだと拓は思った。
(裕人、喜んでくれるといいな)
香月の誕生日は今週末だ。
それまで絶対に内緒にしておかなくてはと思いながらも、ついつい緩む頬を自分でも呆れてしまう。
意識して頬を引き締めながら近所のスーパーで買い物をした拓は、マンションに辿り着いた時ふと駐車場に停められたレクサスを見つけて首を傾げた。
(帰ってるのか?)
今日の香月の予定では、まだ帰って来る時間ではなかったはずなのにと不思議に思う。
ひょっとして具合でも悪くなったのかと、拓は急いで部屋に向かった。
「ただいま、裕人、帰ってるのか?」
スーパーの袋を手に拓がリビングに入ると、香月はソファに座ったままで「おかえり」と声を掛けて来た。
取り込んでくれたらしい洗濯物の山の隣に座る香月は、一見したところ具合が悪そうには見えない。
それでも念のためにと、拓は荷物を下ろすと香月に歩み寄り額に手を当てた。 手の平に伝わる体温は普段と変わるコトもなく拓の手の平に馴染んでくる。
「いきなり何んだよ?」
特に驚いた風でもなく香月が聞くのに、拓は「だって…」と口ごもる。
香月が予定と違った行動を取ったくらいで、すぐにどこか悪いのかと思うなんて心配し過ぎだろうか?
「聞いてた予定より早く帰って来てるから、具合でも悪いのかと思って…」
「早く帰って来られると、都合悪いの?」
香月の言葉に僅かな棘があるように感じる。
機嫌が悪いのだろうかと、額から手を離そうとした途端その手を掴まれた。