可哀そうだなんて思ったつもりは無いが、直輝は淋しくて仕方ないのだろうとは思った。
そう言えば、先週、あの嫌味の応酬で箸の進まなかったランチを直輝は楽しかったと言った。 あの時は、ダメ押しの嫌味にしか聞こえなかったが、事情を知ればあれは本心だったのかもしれないと気づく。
「ってコトで、俺、わりと石に詳しいぜ? 全部、あいつの受け売りだけどさ。 石言葉≠ニかも結構知ってるし、良かったら解説してやろうか?」
「石言葉≠チて?」
直輝の発した耳慣れない言葉に拓は首を傾げる。
この店のそこかしこに張られたポップに書いてある効能とはまた違った物なのだろうかと興味を惹かれた。
「例えばさ、このローズクォーツなんかだと恋愛とか愛情とか、そんな石言葉があるワケ。 だから、これは恋愛成就のパワーストーンで人気なんだよ」
鍵付のショーケースの中の薄いピンク色をした石を指差す直輝の薀蓄に、拓はなるほどと耳を傾ける。
一つ一つの石に意味や効能があるからこそ、パワーストーンとして皆がお守りなどに持ちたがるのだと納得できた。
霊感商法まがいの高額な石を売りつけるのはどうかと思うが、良心的な価格の石をアクセサリー兼お守りとして身に付けて、尚且つ何かしらの効果も得られるのだとしたらそれはかなりのお買い得だ。
例え、もたらされる効果がプラシーボ効果だとしてもだ。
「で? 拓はどんな石を探してるんだ?」
「え? あ、えっと…黒い石…」
天然石の使い道など、それまで玄関の置き飾りか印鑑の材料くらいにしか思っていなかった拓が考えを改めていると、いきなり直輝が聞いてくるものだから妙にたどたどしい口調で答えてしまい、僅かに顔が熱くなる。
そのうえ直輝がそのものズバリを突きつけるようなコトを言うものだからさらに顔が赤くなった。
「あぁ、分かる。 あの子、黒とかモノトーン系の色が似合いそうだったもんな」
「え? べ、別に俺は、そんな…」
何故だか香月へのプレゼントだというコトがバレているらしい。
だからと言って年下の恋人へのプレゼント選びをしている姿なんて、恥かしくて知り合いには見せたいものではない。
慌てれば慌てるほど挙動不審になりかねない仕草で拓が否定するのを面白そうに見ていた直輝は、ショーケースに視線を移すとポツリと言った。
「あの子、幸せだな。 拓にそんなに好きでいてもらえて」
「直輝?」