「お前、何でここにいるんだよ?」
直輝の腕を払いながら顔を顰めると、笑顔で自分を見下ろすその顔を睨んだ。
「んー、ここに来たら拓に会えると思ったから、って言ったらどうする?」
「ふざけるなよ」
偶然とは言え、約束を破る羽目になってしまったコトに罪悪感を感じるせいで口調がきつくなる。
そんな拓の態度に気を悪くするでもなく、直輝が言った。
「相変わらずからかい甲斐があるな。 あぁ、怒るなって」
直輝を無視して立ち去ろうとすると腕を掴まれた。
「石、見てたんだろ? 俺が邪魔なら退散するから」
そんな風に言われてしまうと、自分が少し過剰反応したかもしれないという気がしてくる。
香月との約束は大事だけれど、それはあくまでも香月と拓との約束でたまたま出くわしてしまった直輝には何の関係もないのだと、拓は自分の態度を反省した。
「…ごめん。 お前だって石を見に来たんだよな」
まさか本当に拓に会うためにこの店に来たわけではあるまいと拓が謝ると、直輝は店内を見回しながら唐突に言った。
「俺の恋人がさ、地元で天然石のショップを経営してるんだよ。 だから、こういうショップを見るとつい入りたくなっちゃうんだよな」
「恋人?」
思わず顔を上げた拓の視線の先の直輝は、店内の細かな天然石を愛おしげな顔で見つめている。
まるで石一つ一つが恋人でもあるかのような顔つきだ。
「そ、俺の転勤のせいで、今は遠恋中だけどな」
直輝の笑顔が少し曇ったように見えたのは拓の気のせいなのか。
ジッと直輝を見つめると、拓の視線に気づいた直輝が照れ隠しにか拓の片頬をグイッと抓む。
「そんな顔すんなよ。 俺、別に可哀そうじゃないからな」