「帰るなり何を笑ってるんだよ?」
ショルダーバックを肩から降ろしながら香月が近づいて来る。
Tシャツの上に羽織った薄手のジャケットの肩が僅かに濡れているのは、屋根の無い平面の駐車場からエントランスまでを傘も差さずに歩いたからだろう。
見れば、髪にも小さな滴が織り込まれたように光って見えた。
「なぁんか、ソファの隅にコンパクトに収まってるなと思って」
くすくす笑いながら、元々下がり気味の目元をさらに下げて拓のコトを見ている。
香月がこういう顔をする時は大抵 拓のコトを「可愛い」なんて言い出す時だ。
27歳の男を掴まえて「可愛い」なんてどうかしていると拓は思うのだけれど、本心を言えば香月にそう言われるのは嫌いではない。 ただ、恥かしいだけだ。
「ぬいぐるみみたいで可愛いな」
言うなり、横に座って抱きついてくる。
慌てた拓はカフェオレボウルをしっかりと持って、片足で香月を押し返した。
案の定、可愛いと言われたがぬいぐるみに例えられるとは思わなかった。
「零れるだろ? つか、いい歳した男に可愛いって言うの、いい加減やめろよ」
「実際、可愛いんだから仕方ないだろ?」
拓の手からカフェオレボウルを奪うとテーブルに置き、そのまま体重を掛けて圧し掛かって来る。
体格差では勝てる訳も無く、結局さっきと同じ膝を抱えるような体勢でソファの肘掛と背面の作る角にはまり込むような形で逃げ場を失う。
「ただいま、拓…」
「…おかえり」
ようやく言えた一言を最後に何も言えなくなる。
香月の唇が拓のそれを塞ぐようにキスして来たからだ。
緩やかなキスが繰り返され、角度を変えると熱い舌先が唇と歯を割って潜り込んで来る。
「ん…」