誕生日の近い香月のために内緒でプレゼント探しをする拓だったが、とある出来事が災いして事態は思わぬ方向へと進んでしまう。
HAPPY ENDを迎え、一緒に暮らし始めた香月と拓の その後です。
すくーるでいず番外編 [BOYS☆BE 一周年企画
]
1.
ふと、目覚めた拓(たく)が時計を見上げると1時を回ったところだった。
いつの間にかソファでうたた寝していたらしい。
体を起こし部屋の中を見回してみたが、香月(かづき)が帰って来た形跡は無かった。
(今朝、遅くなるとは言ってたけど…)
このところ香月の帰りは毎日遅い。
学校の授業が終わると母親の経営する新条企画という会社へバイトに行くためなのだけれど、帰って来るのはいつも日付が変わる頃だ。
社長の息子であるために、一応は取締役 副社長という肩書が付いているが、日々が見習い修行で完全なバイト扱いだから給料も時給制なのだと言っていた。
新条企画は店舗企画やプランニングをメインとした会社で依頼があれば土地探しや店舗設計もこなすらしい。
元々は香月の両親が経営していた会社に企画担当と経営担当の部署があったところを、離婚を機にそれぞれの担当部署ごとを独立した会社にしたらしい。
もちろん自社でも何件かのレストランやショップを経営しているらしいが、それらは総て香月の両親が離婚した際に母親が気に入っていた店舗の権利を、当時まだ未成年だった香月の養育費替わりに譲り受けたというコトだ。
その中には、拓にも馴染の深いイタリアンレストランも含まれていた。
そうして香月は大学に通いながら、バイトながらも経営学を実践で勉強しているというワケだった。
「ふぁ…」
それにしても帰りが遅い。
拓は生あくびを噛み殺しながら、コーヒーでも淹れようと立ち上がりキッチンへ向かう。
明日は水曜日で拓の勤める画廊は定休日だ。
午前中なら時間が作れると香月が言うから一緒に買い物にでかける約束だったのに、あまり帰りが遅いようならその時間を睡眠時間に宛ててもらった方がいいかもしれないと考える。
(なんて心配はいらないか。 裕人(ひろと)まだ20歳だもんな。 この程度の寝不足なんて、どうってコトないかもな)
そう思いながら、いつもより濃いめに淹れたコーヒーを薄いベージュ色のカフェオレボウルに温めたミルクと一緒に注ぎ、たっぷり砂糖を入れてソファに戻る。
香月が見たら眉を顰めて嫌がりそうな甘いカフェオレを飲みながら、拓はぼんやりと窓の外を眺めた。
なかなか明けない梅雨は今日も夕方から大粒の雨を降らせている。
香月は車で出かけているから濡れる心配はないだろうけれど、きっと外は蒸し蒸しジメジメと湿度の高さは鬱陶しいほどだろう。
エアコンをドライ設定にしてある部屋の中はサラサラと乾いた空気に満たされていて、外の蒸し暑さとは無縁だけれど、うたた寝なんかしたせいだろうか、温かいカフェオレを飲んでいるのに肌寒さを感じる。
ソファの上に両足を引き上げ、膝を抱えて丸くなりながらボウルに顔を近づけた時だった。
いきなり廊下とリビングを繋ぐドアが開いたかと思うと、ほんの少し疲れた顔の香月が入って来た。
気づいた拓が「おかえり」というより先に、香月が笑い出す。
そのせいで、迎える言葉を言いそこなった。