二人の前にハザードランプを点滅させたタクシーが緩やかに停車すると和泉は後部座席に乗り込み、続いて結有の手を引いた。
ぼんやりとしていた結有は和泉の手の感触にハッとする。
「乗れよ」
特に急かす風でもない和泉を見ながら、結有は足を動かせないでいる。
(やっぱり断ろうかな…)
そう思いながらも口に出すことはできず、グズグズと躊躇っていると再度手を引かれた。
「何 警戒してんの?」
和泉の口許に柔らかい笑みが浮かぶのが見える。
怒るでもなく、バカにするでもなく、ただ結有の決心を待っているような笑みを見てようやく足が動いた。
(俺、考え過ぎだ。 アイツにあんなこと言われたから過敏になってるんだ、きっと)
和泉の下心を疑うようなマネをしていた自分を自意識過剰だと心の中で笑いながら、それでもノロノロと結有がタクシーに乗り込もうと身を屈めた時だった。
「帰るぞ」
いきなり腕を掴まれ、強い力で舗道へと引き戻される。
一瞬、何が起こったのか分からずに結有は誰とも知らない手に引かれるまま後ろへ体をよろめかせた。
その背が大きな何かにトスンと当たった衝撃を感じると同時に、振り返った結有の視界に入って来たのは眉根を寄せた不機嫌そうな祥悟の顔だった。
「!?」
驚きのあまり状況が理解できない結有が声を出すより先に、タクシーの中から和泉の声が聞こえて来る。
「アンタ、何なんだよ」
自分に向けられたはずの和泉の言葉を祥悟は完全に無視した後、結有の腕を強く掴み直した。
「結有、来い」