『 Symmetry 』 vol.1
バスタブに四角いラムネ菓子のようなバスキューブを放り込むと、湯を手でぐるぐるとかき混ぜる。
底に沈んだバスキューブが溶け出し、透明な湯は見る見るうちに乳白色に変わって行く。
浴室にはオレンジの香りが広がった。
子供の頃から入浴剤を入れた風呂が大好きで、それは中学生になった今も変わらない。
バスタブに浸かって手足を伸ばすと、思わずため息が出る。
一番風呂は久しぶりだ。
要領が悪い俺は、いつも兄貴や弟の流輝(りゅうき)に先を越され、風呂の順番が後になる。
でも今日は父さんも母さんも仕事で遅いし、大学生の兄貴は合コンだとか言っていたから、こっちも帰りは遅いんだろう。
だから流輝が部屋へ戻ったのを見計らって、声も掛けずに風呂に入った。
「あ〜、やっぱ一番風呂はいいわ」
弱冠14歳で この風呂好きはオヤジくさいと家族みんなに言われるけど、好きな物は好きなんだから仕方ない。
ズルズルと湯に沈み込み、顎まで浸かってもう一度ため息を吐いた時、いきなり浴室のドアが開いた。
「ルキ?」
「あれ? ユキ、入ってたんだ?」
入ってたも何も、電気が点いてるんだから分かるだろうと思いながら、入る気満々の格好で扉の所に立つルキを見上げた。
「入ってたら悪いのかよ?」
「悪かないけど、それなら声掛けてから入れよ。 つか、今更また服着るの面倒だから、このまま俺も入るぞ?」
俺の返事も聞かずにシャワーのコックを捻ったルキに呆れる。
最初から、俺の意見なんて聞く気は無いんだ。
「…別にいいけどさ」
そう答えて、勢いよくシャワーを浴びる俺とそっくりの顔をしたルキの背中を眺めた。
ルキは俺の一卵性の双子の弟だ。