Novel Library 3

□『 True Love なんて いらない 』完結3
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××××××××

 今日の朝、結有は今歩いている道を逆に帰って行った。
 記憶を頼りに、駅から祥悟の家までの道のりをキョロキョロと辺りを見回しながら歩く。
 ほんの数時間前のコトなのに、何故だかもっと時間が経っているような気がした。
 
(確か、この大通り沿いのマンションだったはず…)

 帰る時は講義に間に合うかばかりを気にしていたから、マンションの外観もちゃんと見ていなかった。
 だいたい建物の外観なんて訪れた時に見るコトがほとんどで、帰り際にしげしげと見る者などあまりいないだろう。 おぼろげな記憶を頼りに何軒も並んで建つマンションの中から祥悟の住む建物を見つけ出すのはなかなか大変だ。
 酔っぱらって連れて行かれたマンションの名前なんて、当然 覚えてるはずもない。
 それでも通りから何軒か覗いてみてエントランスの装飾に見覚えがあるような気がした建物が一軒だけあったので、多分ここだろうとアバウトな考えの元に郵便受けをチェックしてみた。
 表札を出してなかったらどうしようという不安がチラリと頭をかすめたけれど、意外にもすぐに探している名前に辿りつく事が出来た。
 − 1102 S.TACHIBANA −
 ネームプレートを見つめ、祥悟の部屋が11階だったと知った。
 今朝、祥悟から聞かされた記憶にない失態の数々に窓から逃げ出したい衝動にかられた結有だけれど、飛び出さなくて良かったとくだらない考えが頭を過る。
 そのままエレベーターで11階まで上がり、エレベーターホールから2つ目のドアの前に立った。
 その時になって、ふと思う。

(突然やって来ちゃったけど、留守だったらどうしよう?)

 更に自分が昨夜の詫びに来たのに、手ぶらだというコトにも気がついた。
 いくら学生だからと言っても、散々迷惑を掛けたのに手ぶらでは常識が無さ過ぎなのではと、インターフォンを押すのを躊躇ってしまう。

(セイさんから話を聞いて、ただ ここへ来ることしか頭になかったなんて…何やってんだ、俺…)

 何でもいいから近くで適当に見繕って出直そうかとも思ったが、この辺りの地理はまったく分からないためにどこへ行ったら何の店があるなんてコトは検討のつけようも無い。

(まいったなぁ。 どうしたらいいんだろ?)

 インターフォンを押すことも立ち去ることもできずに、ドアの前で立ちつくし自分の足元を見つめながら逡巡していると、突然ガンッという大きな音と共に結有の頭のてっぺんにものすごい衝撃と痛みが走った。
 いきなり前触れもなく開いたドアが、真ん前に立っていた結有の頭に直撃した音だった。

「っ痛ぇ〜」
 
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