突然、そう聞かれて心臓がドキリと大きな音を立てる。
酔いつぶれて一晩 祥悟の家で世話になったうえに「何にも記憶にありません」などと、これ以上 恥の上塗りをする勇気は結有には無かった。
「えと…なんか、あの人にも世話掛けちゃったみたいで…」
ボロを出さない程度に話を合わせて引きつる笑みを浮かべた結有に、マスターは含みのある笑い方をしてみせた。
「ふふっ、昨夜の一番の功労者は祥悟だろうね。 結有の絡み酒に不機嫌そうな顔をしながらもずっと相手してくれてたんだからね」
「そ、そうなの?」
「うん。結有が離れなかったせいもあるのかもしれないけど、あれ以上飲ませないように気をつけてくれてたし、結有に付き合って自分も飲まずにいたんだから」
朝、祥悟はそんなコト一言も言わなかった。
確かに、ずっと離れなくて迷惑したとは言ってたけれど、そんな風に結有の相手をしていてくれたなんて初耳だ。
思いがけない話を聞かされて、結有はどう答えたらいいのか戸惑った。
「だから祥悟には、ちゃんとお礼を言っておくんだよ?」
マスターの言葉が胸に刺さる。
自分は今朝、講義に遅れるという理由でろくにお礼も言わないで、祥悟の家を飛び出してしまっている。
改めてお礼に行くとは言い残して来たものの、ここで話を聞かなければそのままフェードアウトしかねない別れ方をしているコトが急に恥ずかしくなった。
「俺…今から、橘さんちに行って来る」
思い立って結有は立ち上がった。
急いで店から出ようとする結有の背中に、マスターが声をかけてきた。
「祥悟んちって…住所分かってるの?」
一瞬、しまったと思う。
結有が祥悟の家に泊まったコトは、さっきの話では割愛してしまっている。
今更 事情を話すのも面倒で、結有は何の説明もしないまま たった一言「大丈夫」と答えて店を出た。
背中にマスターと洋介の視線を感じながら――。