4.
その日の夜、結有は宵待草のドアの前に立っていた。
祥悟に聞いた話からすると、店にもかなりの迷惑を掛けてるわけだからきちんと謝っておきたかったのだけれど、いざ店の前まで来ると今朝 聞かされた数々の失態に二の足を踏んでしまう。
それでも意を決してドアを開けようとノブに手を掛けたものの、結局おずおずと隙間から覗き込んで顔を出すような格好になってしまった。
「…こんばんは……」
ドアを開けた正面にマスターが、その斜め向かいに洋介が座っていて、結有の小声に二人が揃ってこちらを見た。
「あ、大トラが来た」
洋介がニヤニヤしながら、からかうように笑った。
まだ時間が早いせいか、店内の客は洋介だけだった。
それは結有からすればとても助かる状況で、とりあえず中に入ると後ろ手にドアを閉めた。
「…セイさん、昨夜は その…ごめんなさい」
頭を下げてそう言うと、マスターの柔らかな笑い声が聞こえてきた。
「店のコトは気にしなくていいから、それより結有は大丈夫なの?」
黙って頷くと、洋介が口を挿む。
「セイさん、ホントのコト教えてあげた方がいいって。 結有が倒れた時は、店中 大騒ぎだったって」
「こらっ! 洋介っ」
マスターが洋介のおでこを指で軽く弾いた。
祥悟から凡そのことは聞いていたから慌てなくて済んだけれど、やっぱりかなりの迷惑を掛けたんだろうと思うと恥かしさにヘコむ。
「結有が倒れて皆が驚いたのは確かだけど、すぐに気がついたんだから そんな大騒ぎにはなってやしないよ」
いつもの優しげな笑顔でマスターは結有をなだめるように言った。
マスターの言葉ありがたかったけれど、やはり自分のしでかしたコトは悔やまれるし迷惑を掛けたコトは反省している。
だから、結有はもう一度頭を下げた。
「…なんか、ホントに ごめんなさい」
「あれは、和泉も悪かったんだし…ちゃんと叱っといたからね。 それより祥悟は、ちゃんと結有を送って行ったの?」