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□『 折口クンの憂鬱 〜 折園シリーズ 番外編 〜 』 《前編》
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「おーい、そろそろ切り上げるからスパイク ラスト5本づつな」

 部長の一声にコートの片側に並んで自分の番を待つ間も、俺は隣のコートの園田が気になって仕方が無かった。
 このところ岩井先輩の園田に対するアプローチは見ていてしつこいくらいで、引退を前に決着をつけようとしてるんじゃないかと俺は危ぶんでいる。
 もちろん園田がOKするはず無いコトなんて分かってるけど、二人っきりの時に強く出られたらあいつが上手く立ち回れるとは思えないから気が気じゃないんだ。
 だから部活後はなるべく園田を一人にしないよう気をつけてるんだけど、当の本人に危機感が丸っきりないから俺の心配は尽きるコトがない。

「折口、最後まで気合入ってんな」

 5本目のスパイクを決めた時、部長に声を掛けられた。
 気合じゃなくて、岩井先輩に対する憎悪をボールにぶつけただけなんだけどな。
 部長には曖昧に頷いてみせて練習後のボール拾いを始めようとした時だった。
 ステージに続く階段脇に人影を見てギクリとした。
 そこは春休み中にいつも川瀬が立っていた場所だったからだ。
 けれどそれは男で、更によく見ればものすごくよく知った奴だったけれど、その場に居るのは有り得ない男だった。

「沖?」

「よぉ」

 片手を上げて笑いかけてくる沖に驚いて駆け寄ると「久しぶり」と肩の辺りを拳で叩かれた。
 この茶髪にピアスの見るからにチャラそうな男、沖 遥大(おき はると)は、俺の中学時代からの悪友で今は隣市の私立校に通っている。

「相変わらず、すげぇスパイク打つのな」

「お前にスパイクの良し悪しが分かんのかよ」

「分かるぜぇ、当たったら痛そうだってコトくらいなら」

「……」

 こいつこそ相変わらずだ。
 昔から調子が良くて、いーかげんで、そのくせ妙に人懐こいうえに要領が良いから、どこか憎めない。
 そして俺は、今こいつに軽く頭が上がらない状況にある。


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