Novel Library 2

□『 蝉しぐれを聞きながら… 』 1
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 先輩の欠点が本心を見せずに無茶をするところだとしたら、僕の欠点は考え過ぎた結果 勢いで行動してしまうところだろう。
 家を飛び出してから僕はドラッグストアやらスーパーやらをハシゴしてクスリに栄養ドリンク、冷却シートやフルーツなんかを手当たり次第に買い込んで、今は先輩の部屋のドアの前に佇んでいた。
 前にもらったスペアキーは掌の中。
 でも、それを使うコトを僕は躊躇っていた。
 先輩のコトが心配で つい来ちゃったりしたけど、熱出して寝込んでる人の部屋に押しかけるってどうなんだろう?
 会えないって言われたのに、勝手に来るってどうなんだろう?
 ここまで来ておいて、僕は勢いに任せた自分の行動に戸惑っていた。
 冷静に考えれば、僕のいきなりの訪問は非常識極まりないものなんじゃないかって気がする。
 でも先輩はものすごく適当なところがあるから風邪薬なんて常備してないかもしれないし、買い物だっていけてない気がする。
 それに、ものすごく苦しかったりしたら誰か傍に居る方がいいかもしれないし…
 そうやって思い悩むコト15分。
 スーパーのレジ袋に入れっぱなしのアイスやプリンは真夏の暑さにそろそろ限界だと思う。

「でも、様子を見るだけなら…」

 そうだよね。
 先輩、寝てるかもしれないから、そっと部屋に入って様子だけ見て、買った物を冷蔵庫に入れて帰ればいい。
 薬とか分かりやすい場所に置いておけば、きっと目が覚めた時に気づくだろうし。
 ようやく決心した僕は、握りしめていたスペアキーをそっとドアの鍵穴に差し込んで、静かに回した。

「お邪魔します…」

 音を立てないように静かに部屋に上がり込む。
 先輩の部屋に来るのは初めてじゃないから、勝手は分かってる。
 1LDKに続くドアを細く開いて中の様子を窺ったら、やっぱり先輩は寝てるみたいで部屋の中は静まり返っていた。
 そーっと部屋に入って、寝ている先輩を起こさないように買ってきた物を冷蔵庫に入れようと開いてみたら、案の定ミネラルウォーターのペットボトルと申し訳程度の調味料しか入ってなかった。
 ホントに、こんなんでよく独り暮らしなんてやってるよね。
 買い物をしてきて良かったとつくづく思いながら残りの物も片付けて、僕は忍び足で先輩に近づく。
 近づいてみて気づいたけど、先輩の寝息はものすごく苦しそうだった。

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