Novel Library 2

□『 桜の季節に… 』
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「遅くなりました――って、あれ?」

 放課後。 長引いたHRのせいで、慌てて駆け込んだ美術室に人影はなくて妙にガランとしていた。
 と、いっても美術部の部員は僕を入れても8人と少ないのだから、全員揃っていたとしても広い美術室はいつもガランとしているのだけど。

「真史(まふみ)?」

 誰もいないと思っていたのに、突然 名前を呼ばれて振り返ると美術準備室からカッターシャツにネクタイ姿の先輩が現れた。

「久遠(くどう)先輩…」

「遅かったな。 でも、今日の部活は中止だぞ」

「え?」

 そんな連絡はもらっていなかったんだけどな。
 首を傾げる僕を見て、先輩はクスッと思い出したように笑った。

「少し前に岡がさ、彼女と約束があるから部活休むって言いに来たんだ。 そしたら、それを聞いた奴らが相手がどんな子か見に行こうって揃って出て行っちまったんだ」

 奴らって、部長も含めて皆というコトなんだろうか?
 確かに熱心に活動している部ではないけど、それってどうなんだろう?
 それに、クールと名高い浜田まで? なんだか意外だ。
 なにより、面白いコトが大好きで何かあれば率先して出て行く久遠先輩が残ってるコトが一番意外なんだけど。

「だから今日は休部。 イーゼルとか全部片付けちゃったし、真史も帰っていいぞ」

 そう言われても…本当に帰ってしまっていいんだろうか。
 戸惑っていると先輩は窓際の石膏像の頭に掛けておいたブレザーに袖を通しながら僕に向かって微笑んだ。

「大丈夫、あいつ等が戻ってくるとは思えない。 真史、駅まで一緒に帰るか?」

 優しく微笑まれて思わずドキリと胸が鳴った。

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