『 桜の季節に… 』
――桜の季節に出会った――
春。
満開の桜の下で、僕は川沿いの桜並木と並行して続く木製の柵に腰掛けていた。
まだ朝早い通学路には人影がまったくなかった。
先輩のいう通りだ。
始業式の朝早くなら部活の朝練もないから静かに花見ができると、そう教えてくれた。
満開の桜は薄い雲の色をした空の下で、ただ静かに咲いている。
時折、わずかに吹く風に乗って桜の花びらがヒラヒラと舞って、僕の足元にもふわりと落ちた。
「本当に誰もいないね…」
秋の日。 学校の帰り道に丸裸になった桜並木を歩きながら、満開の時期に誰にも邪魔されずに見たいと言ったら、始業式の朝早くが穴場だと言った先輩。
あれは僕なりに「二人で見たい」と言ったつもりだったんだけど、先輩は全然気づいてくれなかったね。
でも、仕方ないんだよね。
気づくはずが無いんだ。
同性の後輩に好かれてる、なんてね。
「……」
フッと空を見上げる。
視界に花曇りの空が広がる。
桜を見に来たはずなのに、僕は空から目を逸らせなかった。
下を向いたら、溜まった涙が零れそうだったから。
「……」
あんな終わり方をしたコトに、僕は後悔なんてしてない。
だって最初から結末は予測できていたから。
それなのに、どうして未だにこんなにも悲しいんだろう。
「……」
多分それは、もう先輩がどこにもいないから…
教室にも、廊下にも、美術室にも、校庭にも、駅にも通学路にも、この…桜並木の下にも……
「先輩…」
油断すると滲んでくる空をジッと見つめる。
もう会うコトもないだろう先輩の笑顔を思い出しながら、皆でただ毎日をバカみたいにはしゃしで過ごした、楽しくて楽しくていつまで経っても色褪せそうにない短くも輝いていた日々を、僕はゆっくりと思い返した。