『 SLOW LOVE 』 vol.4
「あ・い・ざ・わっ!」
パソコンのモニターを睨みつけ、どうにもならない数字に頭を痛めていたら突然背後からごつい腕に抱きつかれ、驚いてマウスを投げ出しそうになった。
「…何すんですか、多田さん」
振り返らなくったって判る。
こんな子供じみたちょっかいを掛けるのなんて、多田さん以外にこの部署にはいない。
「いやさ、抱きしめたくなるくらい可愛い後ろ姿だったんで、つい」
一体誰だ。 こんな人を主任に昇格させたのは。
振り返り、このうえなく冷たい視線で多田さんをねめつけたけれどまったくどこ吹く風といった体だ。
「何? 相沢、コストダウンの試算表作ってんの?」
「はぁ、課長の指示で。 俺の担当の取引先は対象が2社だけですけど。 多田さんも言われたんじゃないんすか?」
モニターを覗き込む多田さんに聞くと、気の無い返事をしながらマウスの上の俺の手に手を重ねて、何箇所かの数字を訂正してきた。
「俺は対象が4社だったかな? つか、こんな非現実的な数字のせてんじゃねぇよ。 こことここも、まず無理だな」
訂正箇所を見て、ますます頭が痛くなる。
これじゃ、どう考えてもコストダウンにならないじゃないか。
「多田さんは4社とも終わったんですか?」
課長も取引先も双方が納得する金額なんて とてもじゃないけど弾き出せ無くて、多田さんの動向に探りを入れて見るコトにした。
「なんもしてねぇよ。 つか、こんなモン作ったって取引先が快くうん≠ネんていう訳ないしな」
それは確かにそうだろうけど、だからと言って課長命令を無視するわけにもいかないじゃないか。