太一は よく朝帰りしたし、結有もそれを咎めたコトは無かった。
お互いを束縛するような、約束をした関係じゃなかったんだから当然だと結有は思う。
だから、どちらかに好きな相手ができれば関係を解消する、口に出さなくったって解っていたコトだったはずなのに、なぜ自分はこうも関係の終わった太一のコトを考えるのか。
もしかして引き摺っているというコトなのだろうか?
(これじゃあまるで、ホントに太一に失恋したみたいじゃないか。)
そんなはずはない、と結有は思う。
でも、それならこの言いようのない虚しさは何なんだろう?
胸の奥に穴が開いたような、その穴から何か大切な物が流れ出て行くような、そんな説明のしがたい思いが結有の中にあるのは確かだった。
「……っ…」
もしかしたら、これが情ってヤツなのか? と、結有は思う。
もともとは気の合う友達から始まった関係だったのだから、太一のコトは友達として好きだった。
その関係がやり友に発展して、そんな状態で3年間も続いたのだから単なる友達とは何か違う感情が湧いてきても不思議はない。
(俺、太一に情が湧いてたんだ…)
何となく自分でも納得の行く結論が導き出せた途端、結有は頬に何かを感じて手で擦ると指先が僅かに濡れていた。
泣いている自分に驚いた。
太一と別れたコトで味わった虚無感の理由は分かったような気がするが、この涙の理由は分からない。
結有は慌てて両手で顔を覆った。
こんなわけの分からない泣き顔は誰にも見られたくないし、自分自身でも認められない。
(なんで俺泣いてんだ? 意味わかんね…)
考えても考えても理由は思い当たらない。
こうなれば自分を納得させる方法は一つしかなかった。
「くそ…太一のせいだ…」
結有は昨日から何度となく繰り返した言葉を、落ち着くための魔法の呪文のようにまた呟いた。
(そうだ、太一が悪い)