3.
目が覚めた時、結有は自分がどこでどういう状況にあるのかサッパリ判らなかった。
ただ、猛烈な頭痛と悪心と激しい喉の渇きを感じて起き上がるコトもできずに目を眇めて天井を見つめ続ける。
しばらくそんな状態で固まっていると、頭痛に鮮明さを欠いている頭でいくつかのコトに気が付いた。
(ここ、俺の部屋じゃない…)
まず最初に天井のクロスの色が違うコトに気づき、次に自分の寝ているベッドのサイズがいつもより大きいと気づく。
痛む頭を横に向けたところで視界に映った部屋は、結有の知ってる誰の部屋でもなかった。
そのまま吐き気をこらえて体ごと横にするとベッドの足元の壁際に置かれた製図机が目に留まった。
(…太一の部屋…?……なワケ…ないか)
太一の部屋にも、仕事で使う製図机があった。
でも太一の部屋なら目を瞑ってだって歩けるほど良く知っている。 ここが太一の部屋でないコトくらい分かり切っているのに、この期に及んで一瞬でもそんな風に考えた自分を情けなく思った。
(あんな最低なヤツ…)
太一の取った考え無しの行動のせいで『宵待草』では、結有は太一にフラれたコトになっているはずだ。
彼氏でもないのに何で自分がフラれたかのように噂されないとならないかと思うと、やっぱり呪いの一つでもかけてやりたくなる。
あんな人の気持ちも考えない自己中男は死んでしまえと真剣に思った時、誰かに言われた言葉を思い出した。
あれは和泉だったろうか?
『ノンケに走った男に義理立てする必要はないだろう?』
思い出した直後、義理立てなんてしていないと心の中で叫びながら大きく寝返りを打った。 途端にズキズキと激しい頭痛が結有を襲う。
(うぅ…頭痛い…)
痛む頭を抱えながら思う。
太一に義理立てして和泉の誘いに乗らないわけじゃない。 和泉に関してはそれ以前の問題だ。
でも、と思う。
確かに自分はいつまでも太一を意識しているような気もする。
関係を清算してすぐだというコトを差し引いても、太一のコトを考えている時間があまりにも多いのは自分でも解せない。
(そりゃあ一緒に過ごした3年は短い時間とは言えないけど、その間ずっとお互いだけじゃなかったはずなのに)