Novel Library 2

□『 SLOW LOVE 』 vol. 3
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「大したコトは聞いてないよ。 圭が恋多き男だってコトくらいかな?」

 思いっきり、聞いてんじゃねぇか!
 あまりにもカッコ悪い私生活を、自分の知らない所で暴露されいたコトに頭を抱えたくなる。
 2か月置きにフラれてるなんて、千早には知られたくなかった。
 後輩をネタに笑いを取ろうとする多田さんに心の中で悪態を吐きまくりながら、恥かしさを誤魔化すように すぐ前にあった空芯菜をサーモンで巻いた料理を口に放り込んだ。
 カルパッチョソースのかかったそれは、サーモンの味が濃厚で思った以上に美味かった。

「これ、美味いな」

 思わず言うと千早がどれ?≠ニ返してきたから、つい手近にあった小皿にサーモン巻きを取り分け、ついでに菜の花のマスタード和えと野蒜のぬたをのせて差し出す。
 直後、しまったと思ったけど、遅かった。
 千早が驚いたような顔で俺を見ている。
 こういうコトをするから、重いとかウザいとか言われるんだ、俺。
 見た目の軽薄さとリンクした軽薄な下半身に相対して、洗濯や掃除なんかをしてあげたくなる この世話焼き体質。
 我ながら痛いと思う。
 かと言って、今更引っ込めるコトもできない小皿を持った手が、落ち着き先も無いままに文字通り宙ぶらりんになっている。
 重い空気に耐え切れずその手を引こうと決心した時、いきなり千早が俺に向かって微笑んだ。

「意外と甲斐甲斐しいんだな」

 言うなり、千早は小皿を受け取った。
 引かずにいてくれたコトがホントは嬉しかったけど、気恥ずかしさからつい憎まれ口をたたいてしまう。

「取るんならサッサと取れよ」

 千早は気にした様子も無く、サーモン巻きを口に運んで、ホントだ。美味い≠ニ笑って見せた。
 その笑顔にドキンと胸が高鳴った。
 やっぱりタイプ過ぎる。
 結局、その後は胸の高鳴りを誤魔化すために黙々と料理を食べ続け、話すのは専ら千早となった。
 千早の話は仕事の失敗談や、どこそこへ遊びに行ったなどという友人や同僚と話す内容と大差のない当たり障りのないものばかりだったけど、その話し方は人を惹きこむところがあって、俺はいつの間にか相槌を打ちながら、それなりに楽しい時間を過ごしていた。
 度重なる失敗からアルコールは一切口にしない俺に合せて、千早も飲まなかった。
 最後に出された八重桜の浮かんださくら茶を飲みながら、さくらを模った練りきりを黒文字で弄んでいると

「ここの和菓子はそんなに甘くないよ」

 と言われた。

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