『 SLOW LOVE 』 vol.3
「解らない…なんで俺は今、お前とこうして差し向かいで ここに座っているんだ?」
駅からさほど遠くない創作和食の店の個室で、俺は目の前に座る千早を睨みつけた。
「圭がついて来たんだろ?」
今日、会社で会った時とは打って変わって くだけた口調の千早が楽しそうに笑う。
「お前が強引に連れて来たんだろ! 駅で待ち伏せまでしやがって」
「人聞き悪いな。 デートに誘おうと待ってただけだろ?」
どんなに俺が睨みつけても、千早はニコニコと笑っている。
あぁ、この笑顔、たまらなく好きなんだけどなぁ…。
そんなコトを考えて、ハッとする。
何、流されそうになってんだ、俺。
「ヘアスタイル変えたんだな。 前より良いよ。 可愛い」
「可愛いって、男に対して褒め言葉にならないだろ?」
「褒め言葉だよ。 実際、圭は可愛いし、ベッドにいる時は特にね」
くそ、言い返せない。
確かにベッドの上だと可愛くなっちゃうよ、俺は。
それでも言い返せないのは悔しくて、つい仏頂面になった俺を見て千早は妙に嬉しそうに笑った。
「つか、お前さ、最初の時と会社で会った時と、それから今、全然 雰囲気違い過ぎじゃね?」
口調のせいなのか、会社で会った時は違和感を感じて仕方なかった。
最も、今の千早は あの日のベッドでの意地悪な千早そのものなんだけど。