Novel Library 2

□『 SLOW LOVE 』 vol. 1
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 重い。
 これまで過去に何度となく言われた言葉が、胸にグサリと突き刺さった。

「1日にメールがMAX30件とか有り得ねぇだろ? 携帯の留守電だって お前の声しか録音されてねぇっつの。 体の相性は良かったから我慢して付き合って来たけど、もう限界。 俺はお前から解放されたいっ! つうコトで元気でな。 あ、それから、もし俺のコトをストークしたりしたら即刻 警察に相談しに行くから、そのつもりでいろよ?」

 言いたいコトを言うだけ言うと、たった今 彼氏から元彼に変わった男は踵を返す。

「待っ――」

 呼び止めようと差し出した手は男に届かず、て≠ニ言うより先に その姿は人混みに逃げ込むように消えて行った。
 後に残された俺は伸ばした手を引っ込めるコトもできず、固まっていた。
 そりゃ、メール30件は俺もやり過ぎたと思うよ。 でも、それは そっちが連絡くれないからだろ?
 留守電だって、そっちが折電くれればかけねぇよ。
 何より、好きだったんだから 仕方ねぇだろ?
 会いたいって思っちゃダメなのか? 声聞きたいって思っちゃいけねぇのかよ?
 電光石火の別れ話に、言いたいコトは何一つ言えやしなかった。
 その時、頭上でちょうど9時を指し示したカラクリ時計から間延びした音楽が鳴りだし、何だかよく分らない人形たちがクルクルと回り出すマヌケな様は、その真下で同じくマヌケな恰好で固まる俺に悲しいほどリンクしていた。

「だあぁ、もう やってらんねぇ!」

 一息に煽った何杯目かのグラスをダンッと音がするほど勢いよくコースターの上に下ろすと、馴染みのウェイターが愛想笑いを浮かべながら近づいて来た。

「相沢さん、荒れてますね。 つか、相沢さんって2か月置き位に こんな風に荒れますよね、何で?」

 2か月置きというウェイターの言葉に、ピクリと肩が震えた。
 それは、凡そ2か月周期で俺がフラれるからです≠ニは言える訳も無く、

「さぁ、バイオリズムなんじゃねぇの?」

 と、適当なコトを言っておいた。

「バイオリズムって、あれ普通は1か月周期でしょ? なんで相沢さんだけ 倍周期?」

 無神経にツッコんでくるウェイターに 酔って焦点が上手く合わない半開きの目を向けると、何か感じ取ったのか そそくさとカウンター席の別の客の元へと移動した。

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