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時の流れが人の心を癒すなら、日々の積み重ねで胸の痛みは消えるはずなのに、こんなにも痛くて苦しいのは、傷が癒されていない証拠なんだろう。
それはとても辛いコトだけれど、その痛みが教えてくれる。
まだ愛しているんだと。 忘れてなんかいないんだと。
そうして また胸が痛みだす。
片時も忘れるコトが出来ない彼を 傷つけたコトを思い出して…
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3年後。 晩秋――
「西岡さんって、うちに来て そろそろ3か月になるんですよね?」
ギャラリーの隅の事務スペースで伝票のデータ入力をしていた拓に、愛美(まなみ) が声を掛けて来た。
「そうか、もうそんなに経つんだな」
「仕事、覚えられました?」
「愛美ちゃんの指導が良いから、ずいぶん慣れたよ」
拓が笑いかけると、愛美は照れたような笑みを浮かべながらそんなコトないですよぉ≠ニ笑った。
言われてみるまで気がつかなかったけれど、拓が この画廊に勤め始めて明日でちょうど3か月になる。
地元で、子供の頃通っていた絵画教室の手伝いをしながら、ただ日々を過ごしていた拓の元へ、画廊での仕事の話は突然舞い込んで来た。
「でも、この店って変ですよね? 特にオーナーが。 私、出勤初日に、200万を銀行に入金しに行かされたんですよ。 フツーなくないですか?」
「愛美ちゃんは初日だったんだ? 俺は、3日目に500万入金しに行ったよ」
この画廊のオーナーは絵画教室の先生の友人の息子で、当初 拓は、地元にある父親の方が経営している画廊に勤めていたが、半年も経たないうちに、急に人出が足りなくなったという理由で、息子が経営している系列店へ行くコトになった。
その時点で、拓はかなり迷った。
と言うのも、この店は拓が3年前まで住んでいた街と同じ県内にあったからだ。