「香月は親に放任されて育って来たから、そのせいで親に反発して中学までは素行が悪かったんだ。 でも高校に入って ようやく普通の子と変わらない生活を送るようになって、学校も楽しいって思い始めたのに、俺が香月を受け入れたら あいつはそれを捨てようとするから」
「…そうか。 でも、お前が学校を辞めるコトで一応のケリが付いたんじゃないのか?」
「香月の父親が望んでるのは俺達が完全に切れることだから、俺が学校を辞めただけじゃ済まないよ。 でも、香月は俺を選ぼうとするから…俺が傍に居たら進学だって諦めるだろうし、今の学校だって中退しかねないんだ。 それに俺も傍に居たら香月を諦めきれない……だから、もう香月の傍にはいられないんだ」
功を相手に話すうちに、僅かながらも平静さが取り戻せたような気がする。
自分が何故 香月を振り切って逃げるように帰って来たのか。
香月のためにできるコト。 香月のためにしなければならないコト。
香月への想いを抑えるコトに必死で 忘れかけていたけれど、総ては香月の為だと思い出した。
多分、自分がしたコトは間違っていない、と拓は思う。
香月を傷つけてしまった小さな誤算以外は。
「別に大学なんて、いつだって行けるんだから 今はお前たちの気持ちを優先させる方法もあったんじゃないのか?」
「それだって香月の方がハイリスクじゃないか。 このご時世で現役って言葉にどれほど左右されるか俺も身を持って知ってるから…。 兄ちゃん、俺ね、俺の存在が香月の負担になるのは嫌なんだ。 あいつには今日まで数えきれないくらい幸せにしてもらった来たから…」
「俺は部外者だからよく分らんが、それはその子も同じ思いなんじゃないのか? それなのにどうして拓だけが――」
ソファから身を起こし、功の言葉を遮るように拓は言った。
「それは違うよ。 俺だけ、とかじゃないんだ。 これは俺の願いでもあるから…あいつは変に大人びてる分、いろんなコトを我慢して生きて来てて、俺といる時もそうだったから もっと年相応の時間を過ごして欲しいって、そう思うんだ」
「でも、それを言わないと香月って子には伝わらないままだろ?」
「…いいんだ、伝わらなくても。 恩着せがましくなるのは嫌だ。 それに香月は俺と違って元々 普通の子なんだから…。 こういうコトになったんなら、俺はと違う道に進んだ方が良いに決まってる」
「…そんなに辛そうな顔してるくせに?」