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「拓っ?」
玄関のドアを開けた時、功は隠しきれない驚きの表情を浮かべていた。
それもそうだろう。
つい何時間か前に帰って行ったはずの弟が、開けた扉の前に所在無げに佇んでいるのだから。
「お前、昼に新幹線乗って帰ったよな?」
「…ごめん、兄ちゃん……今晩、泊めて…」
帰った時と同じダッフルバックに、紙袋を二つ下げた拓がポツリと言うと、功はドアを大きく開けて拓を迎え入れてくれた。
「忘れ物…程度で戻って来たりしないよな。 何かあったのか?」
部屋の中で立ち尽くす拓の手から荷物を取り、功は心配そうな顔つきで拓を覗きこんで来る。
学校を後にしてから、拓は自分の部屋には帰らず、そのまま新幹線に乗った。
とにかく香月から離れることしか頭になかったし、今の精神状態で友人の部屋を訪ねるわけにもいかないと思った。 だから…
「他に、行くとこ思いつかなかったんだ…でも、自分の部屋には帰れないし……」
ぼんやりと焦点の合わない目に映る 功の部屋のフローリングの木目を見つめながら拓は呟く。
そんな拓を見て心配になったのか、功にソファに座るように促された。
「何があったんだ?」
「俺、ね…学校辞めて来た」
ある程度、予想していたのか功は さほど驚いた様子を見せなかった。
ただどうして?≠ニ聞いてきた。
「今年度いっぱいは続けるつもりだったんだろ? こんな急に辞めるなんて、何かあったんだろ?」