「今からですか? …あの、何かあったんでしょうか?」
『その…西岡先生に お会いしたいという方がみえてるんですよね…』
安川の言葉に拓は 嫌な予感を覚えた。
何か根拠があったわけではないけれど、あまりいい話ではないような気がする。
けれど、知らぬ顔もできないコトは判っていたから、今から行きますとだけ答えて通話を切った。
(誰だろう?)
思いもよらない学校への訪問者に首を捻りながら、拓は香月に今、駅に着いた。 学校へ寄ってから帰るから、またメールする≠ニだけ、送信して、帰省の荷物をコインロッカーに預けるべく 改札へ続く長い階段を下りて行った。
拓が学校へ着いた時、職員室の空気はかなり緊迫していた。
拓に気づき歩み寄る安川以外の教師は 皆一様にチラチラとこちらを見るものの、視線を合わせようとはしない。
元より、非常勤講師の拓は一線引かれているような所があったが、今日の雰囲気は いつものそれとは明らかに違っていた。
「西岡先生、お疲れの所を呼び出してすみませんね」
労いの言葉をかける安川に、拓は小声で聞いた。
「あの…僕に会いたいというのは どなたなんですか? それに、なんか職員室の雰囲気がいつもと違うんですけど……」
安川は少し困ったように口籠った後、お待たせしてるから、と拓を たった今 来たばかりの廊下へ誘った。
拓と安川が職員室を出ると、すぐに中から声を潜めて囁き合っている空気が伝わってくる。
嫌な空気だった。
自分が休んでいる間に一体何が起こったのかと、拓はだんだん不安になってくる。
そんな拓の様子に気づいたのか、安川が話しだした。
「本当なら、僕が話を聞くべきだと思ったんだけどね、担任ですから…でも、西岡先生でないとダメだとおっしゃるものだから…」
「あの、一体 誰なんですか?」