翌日、拓は駅まで送ってくれた功と一緒に 駅構内のベーグルショップでブランチを取った後、新幹線に乗った。
もう少し ゆっくりしていけばいいのに、と言う功の言葉に僅かにグラつきはしたものの、香月に早く会いたいという思いには勝てなかった。
近いうちに、また顔を出すよ≠ニ手を振りながら、いつか功には香月と会ってもらおうと思った。
座席に腰を下ろして腕時計を見ると、11時を回ったところだった。
テストは今日が最終日で、生徒は昼前には下校する。
自宅に帰って帰省の荷物を片付けたとしても、2時くらいには香月と会うコトができそうだ。
とりあえず下校後にメールを送っておけばいいだろうと、膝の上のコートのポケットから文庫本を取り出す。
帰省する時は心配ごとの方が多くて、移動時間を気にする余裕もなかったけれど、すべてが済んでしまった帰りの新幹線は きっと時間を持て余すだろうと、キオスクで買って来たものだった。
学生の頃 好きだった作家のもので、就職して以降 忙しさのあまり新刊が出たコトも知らなかった。 1年以上も前に刊行されていた その本を開いて、数ページ読み進めるうちに拓は小説の世界に没頭して行った。
ふと、車内アナウンスが耳に届いた。
ぼんやりと その声を聞いていると、自分が降りる駅名を告げるアナウンスだった。
いつの間にか本を手に眠っていたらしく、拓は慌てて荷物をまとめると下車の準備を始めた。
(自分で思ってたより 疲れてたみたいだな…)
生あくびを噛み殺しながら新幹線から降り、ホームの隅で香月に連絡を取ろうとケータイを取り出した時だった。
フリップを開くより先に、着信音が鳴り出した。
あまりのタイミングの良さに、驚くより先に通話ボタンを押してしまっていた。
「もしもし」
『もしもし? 西岡先生? 安川ですけど――』
受話口から聞こえてきたのは 安川の声で、その後ろから ちょうどチャイムが聞こえたため、それが学校からだと判った。
『お休みなのに、すみません。 まだ、ご実家かな?』
「いえ、今 こっちに戻ったトコです。 と言っても まだ駅なんですけど…」
拓が答えると、安川はしばらく黙っていたけれど、言いにくそうに切り出した。
『それじゃあ、申し訳ないんだけど 今から学校に来てもらえないかな?』