「俺、教師を辞めようと思ってる」
功は何も言わなかった。
予想していたのか、それとも驚き過ぎて言葉にならないのか。 どちらにせよ、拓の次の言葉を待っているような気がした。
「辞めてどうするとか、具体的なコトはまだ何も考えてないけど、今年度いっぱいで辞表を出すつもりなんだ」
「…理由、聞いていいか?」
ぴくんと拓の肩が揺れた。
教師を辞めると言えば、その理由を聞かれるのは当然だと思っていたけれど、やはり言いづらい。
功にどう思われるのかと考えただけで、胸が痛む。
けれど、避けて通れるコトではないと分っているから、拓は覚悟を決めて口を開いた。
「今 付き合ってる奴…昨年、教科担任として受け持ってた生徒なんだ…」
功が小さく息を飲んだのが分った。
当然の反応だと思う。
身内が犯罪まがいの交際を同性としているなんて、信じたくなくて当たり前だ。
「何度も気持ちを止めようとしたんだ。 でもダメだった。 あいつが大切で、絶対に失いたくない――」
香月への止めようのない想いを声に出して言ったのは初めてだった。
そして、拓は改めて自分の想いを噛みしめるように失いたくない≠ニもう一度呟いた。
俯く拓に、功の戸惑いを隠しきれない 呟きのような問いかけが投げられた。
「…どっちから…先に?」
「時期的なコトをいうなら、多分 お互い同時期に好きになったんだと思う…」
拓が香月への気持ちを自覚したのは、雄一と別れた時だった。
そして香月の言う通りなのであれば、香月もまた雄一との決別に涙を見せた拓に 想いを気づかされたはずだ。
「もし、想いを伝えたのはどっちが先かって質問だったんなら、そんなのは関係ないよ。 どっちが先だったとしても、責任は全部 俺にある。 あいつは何一つ悪くないから」