「兄ちゃん?」
「…大伯父さんみたいに天寿を全うできれば良いけど、実際はそうできない人の方がずっと多いんだろうな。 誰だって明日の保証は無いんだって、葬式に出る度に思う…」
その時、思い出した。 功は学生の頃、友人を事故か何かで失くしていた。
当時、小学生だった拓と妹には詳しいことは語られなかったけれど、その時の気落ちした功のコトは鮮明に覚えている。
早くに近しい人を亡くすコトが どんな気持ちなのか拓には解らないけれど、明日の保証は無いという功の言葉に重みを感じた。
「ははっ、葬式ってどうも思考まで湿っぽくなるよな。 まぁ、生きてる俺達は悔いの無いように生きて行けって、亡くなった人達からの最後のメッセージだと思って頑張ってくしかないよな」
そう言って話をまとめた功は、立ち上がりキッチンへと向かった。
その後ろ姿をぼんやり見ながら、拓は功の言葉を反芻した。
(悔いのないように…)
悔いのない生き方を、自分はしていると思った。
強い背徳感を抱えながらも、香月を手に入れて幸せな日々を過ごしている。
もし、今ここで自分が死んでも悔いは残らないだろう。 残るとしたら、死の直前に香月が隣にいないコトくらいだ。
けれど、香月はどうなんだろう?
同じように死に直面したとしたら悔いはない≠ニ思ってくれるだろうか?
(俺はそれだけのコトを香月にしてあげられてるのか?)
「ほら、コーヒー。 飲むだろ?」
突然、目の前にマグカップが差し出された。
拓と違いコーヒーや紅茶に無頓着な功の淹れてくれた それはインスタントの粉に湯を注いだだけのものだったけれど、自分以外の誰かが淹れてくれたと言うだけで十分に美味しく感じた。
「なぁ、兄ちゃん…例えば自分は幸せだったとしても、一緒に過ごしてる人も同じように幸せだとは限らないよな?」
「何だ、急に? 恋人のコトでも考えてたのか?」
功に図星を指されて、思わず顔が熱くなる。