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翌日、葬儀はしめやかに執り行われた。
歳が歳だっただけに、友人や知人の参列者は少なく、身内の関係者がほとんどの式だった。
静かに流れるように聞こえる読経の中で、一番気落ちしていたのは祖父だった。
祖父と大伯父は仲の良い兄弟で、揃って元気で長寿と言われる年齢になっても互いに行き来し、頻繁に会っていたようだった。
「祖父ちゃん、ガックリ来なきゃいいけどな」
「あぁ、心配ではあるけど…あの歳だし、覚悟はできてたようなコト前に言ってたぞ」
そうは言っても、と拓は思う。
年齢的にいつかはと思っていても、やはり死は突然で、例えば自分があれくらいの年齢になった時、突然兄の訃報を聞かされたとしたら…そう考えて拓は狼狽した。
今 目の前にいる兄の死を想像するなんて、仮定だとしても失礼過ぎる。それ以上に、兄が自分の前からいなくなるコトなんて、そんな悲しいコトを考えた自分に腹が立った。
「拓、何考えてるか当ててやろうか? もし俺が死んだら、とか思っただろ」
功の疑問形ではない言い切りの言葉に、拓は絶句する。
それと同時にバツの悪さに、顔に血が上って来た。
昔から、功には何でも見通されてきたような気がする。
「お前、解りやすいからなぁ」
功は笑いながら拓の額を軽く小突いて来た。
「ごめん、兄ちゃん」
「謝んなよ、そんなコトくらいで」
笑いながら拓の頭を大きな手でグシャグシャとかき回す癖は子供の頃から変わらない。 昔は子ども扱いされるのが悔しくて、この手を邪険に振り払ったりもしたけれど、今は変わらずこうしてくれることが拓は嬉しかった。
帰省して2日目。 身重の唯に気を使い、今夜は実家ではなく功の部屋に泊めてもらうコトにした。
几帳面な功の部屋は気持ちいいくらいに綺麗に片付いていて、物が多くて雑然としている拓の部屋とはずいぶん違っている。
同じように育った兄弟なのに、この差は何なんだろうと子供の頃から不思議に感じていたコトを思い出しながら、頭の上の手の平の感触を楽しんでいると、ふと、功の手が止まった。 不思議に思い見あげると、視線はどこか遠くを見ているのか焦点が合っていないように見えた。