「ホントに? 淋しいって思ってる? じゃあさ、今 好きって言ってよ」
いきなり何を言い出すのかと思いながらも、いつになくしつこい香月に半ば呆れるのと同時にくすぐったい思いに駆られた。
だから、つい香月の甘えるようなわがままに答えてしまう。
「しょうの無い奴だな……好きだよ…」
そう言った直後に視線を感じ振り返ると、孫らしき小さな女の子の手を引いた女性と目が合った。
女性は、拓に微笑ましげな笑みを見せながら通り過ぎて行く。
「……」
『うはっ、マジ嬉しい……あれ、拓? 急に黙るなよ。 照れてんの?』
携帯の受話口から聞こえる少しはしゃいだような香月の声が 訝しげなものに変わったために、首の後ろが熱くなるのを感じながら応えた。
「今の…人に聞かれた……恥かしいっ…」
拓の言葉に、こちらの事情をいくばくかは察したらしい香月の笑い声が耳に届く。
どうにも楽しそうなところが憎らしい。
「香月のいうコト聞いたせいで、余計な恥かいたじゃないか」
「俺はその分、拓の愛を感じられたな〜」
止まらない笑いの合間に香月が楽しそうに言った。
この場合、楽しいのは 拓の愛を感じたからなのか、拓が恥をかいたのが可笑しかったからなのかは判らない。
「もう切るからなっ! …ちゃんとテスト勉強しろよ」
「分ってる。 拓が帰って来るまでまじめに勉強しとくから…好きだよ、拓」
思わず不整脈を起こしそうなタイミングで愛の告白をした香月の手で、通話は一方的に打ち切られた。
「…っだよ、香月の奴…」
耳まで赤く染めながら、拓は切れた携帯の液晶に向かって口を尖らせた。
まだしばらくは座席に戻れそうにない、と真っ赤になった首の後ろをさすりながら、ガラス越しに猛スピードで流れて行く夜の街並みに目をやった。