1月の末 学年末テストの前日、拓の元に突然の訃報が届いた。
亡くなったのは大伯父で、葬儀に参列するために拓は急遽 帰省するコトになった。
休みをもらったのはテストの3日間で、試験監視の割り振りだけは代わってもらったけれど、授業に穴を開けずに済んだコトは幸いだった。
『じゃあ、テストの最終日には帰って来るってコト?』
「多分…」
連絡をもらってすぐに家を出て、実家へ向かう新幹線のデッキから香月に電話を掛けた。
2歳違いの妹から拓に連絡が入ったのは下校時間を30分ほど回った頃で、香月はすでに下校していたし、拓も帰省の準備や喪服や数珠を探しているうちに時間が過ぎて行き、今ようやく連絡を取るコトができたのだ。
今週はテスト準備週間だったこともあり、香月と会うのは儘ならなかった。
テスト前に一緒にいる所を見られたりして いらぬ誤解を生まないよう外で会うのはもちろん、拓の部屋にも来ないようにさせていたため、校内で見かけるコトはあっても顔を合わせていない日が丸一週間になっていた。
『仕方ないよな…拓、大変なんだもんな』
「急なコトで俺も驚いてるけど、歳が歳だからな。 天命だったんだと思うよ」
『拓、大丈夫か? 気落とすなよ』
「ありがとう、俺は大丈夫だよ。 それよりテストの方は大丈夫なのか?」
『だから、大丈夫だってば。 前にも同じコト聞いたよな、拓って』
そうだったろうか?
香月の成績が良いコトは分っているが、やはり気になる。
この時期の成績は、志望校を決めるのに影響するからと思うと、自分のコトでなくても心配になる。
そんな拓の心配をよそに、香月はテストより拓と会えないコトの方が気になるらしく、帰る予定の日にちの次は時間まで確認してくる。
「時間までは分んないよ。 とりあえず、向こうを出る時にでも連絡するから」
『テスト週間なんて元々楽しくも無いのに、拓と会えないから前以上に嫌いになった…』
「なに子供みたいなコト言ってんだよ」
香月の拗ねたような口調に笑ってしまう。
『なんだよ、拓は俺と会えなくても平気なのか?』
「そうは言ってないだろ? 俺だって淋しいよ」
辺りに人がいないコトを確認するためにキョロキョロしながら、送話口に向かって話す声は先程よりも小さくなる。
電話の相手が同性の教え子だなんて、誰にも分るはずがないのに つい声を潜めてしまう。