Novel Library 2

□『 すくーる でいず 〜 シナモンとネクタイ〜 』 23
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「ポトフ作ってみたんだ。 っても、拓んちにある材料で作ったからカブは入ってないんだけど」

(カブ?)

 そりゃ、無くて当然だろう。と拓は思う。
 カブなんて特に定番でもない上に、どう料理したらいいのか良く解らない食材を、料理が趣味でもない独り身の男が わざわざ買う訳がない。
 それ以前に拓はポトフにカブが入っているコト自体知らなかった。

(ポトフに入ってる あの白くて大ぶりにカットされてる野菜はカブだったのか)

 以前食べた時に、これは何だろうと不思議に思った野菜の正体が判明して拓は小さく笑った。 カブなんて、漬物くらいしかないと思っていただけに、調理法が違っただけの野菜を見抜けなかった自分が何だか可笑しかったのだ。

「あ、俺もピザ買って来たから、すぐ夕飯にするか」

「ん、じゃあ、準備する」

 一旦、寝室に引っ込み、着替え終わった拓がリビングに戻ると夕飯の準備はすでに終わっていて、香月がミラーマットでできた保温用の袋の中からピザの入った箱を取り出しているところだった。
 バジルとポモドーロの乗ったシンプルなマルガリータと、マリナーラにアンチョビとサラミを乗せたピザは極薄のクラフトタイプの生地で、12インチとサイズは大きめでもサクッと食べられてしまうところが拓は気に入っている。
 ダイニングテーブルを兼ねたローテーブルにつくと、真っ先に香月の作ったポトフを口にしてみた。
 肉と野菜のうまみが凝縮されたスープは熱くて、体の冷えていた拓の胃の腑に染みた。

「美味いな、これ。 香月に料理の才能があったなんて知らなかった」

「大げさだな。 うちは親が留守してばっかだったから、早くから自炊してただけだよ。 基本はシュウさんに教わったから、同い年の奴に比べれば多少できるかもしんないけど、素人に毛が生えた程度だろ」

 ツンとあごを反らした香月は、拓と視線を合わせようとはしない。
 拓に褒められたコトは嬉しかったようだけれど、わざと何でもないように振る舞うのは照れているからなのか。

「ホントに美味いって。 俺は自炊が苦手だから凄いと思うよ。 シェフとか向いてるんじゃないか?」

「だから無理だって。 舌に自信無いし、料理人に必要不可欠な繊細さに欠けてるから、俺は」

 肩を竦めながら、ピザを口に放り込む香月はやはり照れているようで、拓はもう少しからかってやりたくなった。

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