Ⅺ.
日々は穏やかに過ぎていった。
あの日、教師と生徒の関係を越えてから、二人はどこにでもいる恋人たちのように、笑いあい、逢瀬を重ね、互いの存在に安心感を覚え、体を重ね、想いを深くしていった。
何も特別なコトなどなくても、日々の中 二人でいられるだけで幸せだった。
「拓、いる?」
美術準備室のドアをノックもしないでいきなり開けて入ってきた香月を、拓はノートパソコンから視線だけを上げて軽く睨んだ。
「香月、学校では西岡先生≠チて呼ぶ約束だろ? 誰か居たらどうするんだ」
「この部屋に俺以外の奴がいたコトなんて無いじゃん」
悪びれもせずに笑う香月に、拓は呆れてため息を吐きながら体を起こした。
どうにも香月には緊張感が足りないような気がする。
「生徒はいなくても、安川先生だって ここの管理者なんだぞ? いつ居たっておかしくないんだからな」
「はい、はい。 じゃあ、西岡先生、何してたの?」
言いながらパソコンを覗き込もうとするから、慌てて閉じる。
「個人情報保護法により、お見せできません」
受け持ちの生徒の3学期の成績をつけるための資料を作っていた所だったために、拓は少し慌てていた。
香月が 他人の成績を知ったところで言いふらすとは思わないが、これはケジメだ。
「ふぅん、とか言ってホントはエロいサイトでも見てたんじゃねーの?」
「アホ、見るか、そんなもん」
間近にある香月の頭を軽く小突くと、何故だか嬉しそうに笑った。
「叩かれたのに、笑ってんなよ」
「拓になら何されても嬉しいんだよ、俺…っと、違った。 西岡先生だった」
反省もしてなければ、学習する気も無さそうな口調に頭が痛くなりそうだ。