紅茶の中の自分を睨みつけるように見つめ続ける拓に、香月の声が届いた。
「俺ね、いつもいつも拓ちゃんの嬉しいって顔が見たかったんだ。 なんでもいいから、俺の手でできるコトで拓ちゃんに嬉しいって顔をさせたくて、ただ それだけでこれを作ったんだ。 それが、俺が拓ちゃんに構う理由だよ」
「な、んで、俺のコト そんなに……」
不意に香月が立ち上がった。
そして丸テーブルに沿うように歩くと、拓の真横に立つ。
拓は、思わず香月を見あげた。
下から見上げた香月の表情は、僅かに眉を寄せ 怒っているようにも、逆に今にも泣き出しそうな顔にも見える不思議なもので、それが拓の胸を締め付けた。
香月にジッと見つめられるコトに落ち着かなくなり、途端に拓の視線が泳ぐ。
あちこちに視線を移しながら、結局 それを香月に戻すコトはできず、そのまま拓は俯いた。
再び 二人の間に沈黙が降りてくる。
それは拓にとっては とても長い時間に感じられたけれど、実際には僅かな時間でしかなかったのかもしれない。
転機は突然だった。
「…好きだ」
拓の耳に聞き慣れた香月の声が届いたけれど、それはどこか遠い知らない国の言葉のように、拓には意味が理解できなかった。
呆けたような表情で拓が香月をゆっくり見上げると、真剣なまなざしが拓を包むように見下ろしていた。
好きだ≠ニ、香月は繰り返した。
まだ理解の及ばない拓の頬にそっと触れると、小さく口許をほころばせる。
「俺は拓ちゃんのコトが好きなんだ」
頬に触れる香月の感触に、拓はようやく意を得て香月を見ていた目を見開いた。
「う…そだ…」
信じられなかった。
自分が香月に抱いていた想いは片恋で、香月の気持ちが自分に向いているだなんて信じられない。
香月の微笑みが、小さな笑いに変わった。
「信じてないの? 俺は、拓ちゃんが好きだって ずっと態度に出してたろ?」