不思議なもので、一つ 取っ掛かりを掴むと当時のコトがするすると細かいところまで思い出せた。
その子は明らかに痛みを伴っている不自然な歩き方をしていて、外壁の柵に掴まりながら店の中の様子を伺った後、元来た道を戻ろうと振り返ったところで、拓と雄一と鉢合わせするかのように向き合ってしまい、驚いて転びそうになるのをとっさに支えた。
聞けば、帰宅途中にケガをして帰って来たはいいけれど、店が混んでいるのを見て 気を回し、裏口へ回ろうとしていたらしい。
冬だと言うのに、その子供の額には大粒の脂汗が浮いていて、一見して軽傷ではないと気づかされた。
だから、拓は その子供を抱え上げて店に入った。
そして、店の責任者だという人に その子を引き渡したのだ。
「うん、思い出した。 でも、あの時けがをしてた子は香月じゃないだろう? どう見ても小6には見えなかったぞ」
(5年前なら、香月は12歳の小学6年生のはずだし)
それを聞いて 香月は照れたように頭を掻きながら笑った。
「あれ、俺だよ。 小学生の時は めちゃくちゃチビだったんだ」
「え……あれ、お前? うそっ!」
「ホント。あの後 急に身長が伸びて、中学卒業するころには170p超えたんだけどね。 あ、今も伸びてるよ」
思いもよらぬ事実に拓は言葉を失った。
けれど、それは香月と前に会っていたコトに対してではなく、5年前は抱き上げられた男の子が、今は自分を見下ろしているという現実に対してだった。
「成長期って、誰にでも平等に来るもんじゃないんだな…」
拓の成長期は緩い右肩上がりで、中学入学時には160pの身長で比較的大きいほうだったのに、その後の伸びが実に地味で、結局、5年間で8pしか伸びず、高校二年で成長期に終わりを告げられてしまった。
「あの時のケガ、足の甲にひびが入っててさ。病院行ったら、ギプスはめられちゃったよ」
「お前、かなり辛そうだったもんな」
あの時、抱き上げた香月を引き渡した店の責任者が 多分シュウさんだったんだろう。
当時のコトを思い出しながら、拓は香月を見た。