Novel Library 2

□『 すくーる でいず 〜 シナモンとネクタイ〜 』 O
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  歩き出してすぐに気がついた。
 繁華街のような人が多く、しかも皆 一様に派手に着飾っているような雑踏の中でも香月の容姿は際立っている。
 女たちは皆 チラチラと意味ありげな視線を送っているし、すれ違い様に香月に気づいた人は 必ずと言っていいほど振り返る。
 けれど、当の本人は相変わらずの無頓着ぶりで、立ち止まって視線で追う者や、うっとりと見つめるすべての視線を無視して、ただ拓にだけ話しかけてくる。
 拓は それが嬉しかったものの、いたたまれない思いも同時に感じていた。
何故なら、香月に視線を送った何人かが、隣を歩く拓に気づき 視線を移して来たのだけれど、そのほとんどの人が拓を見て訝しげな表情をしたからだ。
 言いたいコトは解る。 香月の隣を歩くには、不釣り合いだと思われたのだろう。
 しつこいようだけれど年齢不詳の外見に このトレーナーでは、香月の隣は似つかわしくないと拓自身にも判っている。 だからこそ、露骨な視線は辛かった。
 無意識のうちに、マウンテンパーカーの前をできる限り合わせ、その上で腕を組む。
 いっそ離れて歩こうか≠ニ思った時、その声は聞こえた。

「あれ? 裕人さん?」

 突然掛けられた声に香月が立ち止まったのを見て、拓は香月の名前が裕人≠セったコトを思い出す。
 声を掛けて来たのは、大通り沿いのショットバーから出てきたバーテンだった。

「こんな時間に どちらへ?」

 香月の知り合いらしい そのバーテンは、明らかに拓よりも年上のようだけれど、香月に対してずいぶん礼儀正しかった。

「心配しなくても、シュウさんのとこへ行くだけだから。 変な告げ口とかしないでよ?」

「シュウさんの所ですか…」

 二人のやり取りを聞きながら、拓は少しづつ香月から離れた。
 ここまでの距離を来る間に、香月と自分が不釣り合いなのは十分自覚したから、ピッタリと隣に並んで歩くのは少々しんどくなって来ている。 今を機会に、少し離れて歩こうと思ったのだ。
 香月とバーテンから5〜6メートルほど距離を取って待つことにした。
 ふと見ると路上駐車の車の窓ガラスに映る拓自身と目が合う。
 そこに居るのは、どう贔屓目に見ても地味な学生といった冴えない自分の姿で、今はトレーナーのせいでオタクテイストもミックスされている。

(これで香月の隣に居たら、浮いて当然か…)

 僅かに自分を嘲るような笑みを口の端にのせながら、大通りを走る車の流れをぼんやりと眺めていると、いきなり後ろから腕を取られ、驚きのあまりビクリと体を震わせた拓がまた補導員か?≠ニ恐る恐る振り返ると、ハタチ前後の男が人懐っこい笑顔を浮かべて立っていた。

「ねぇ、高校生? こんな時間に一人で どうしたの?」

 高校生でも、一人でもない≠ニ拓が答えようとした時、男の手が腕から滑るように移動し、胸の前で組んだ拓の手を取り握って来た。
 
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