Novel Library 2

□『 すくーる でいず 〜 シナモンとネクタイ〜 』 M
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 香月の、父親との話を聞いた翌週からは期末考査準備週間が始まった。
 この週は教師が期末テストの問題を作るため、生徒は職員室及び教科準備室への入室が禁止される。 拓がいつもいる美術準備室も例外ではなく、準備週間からテストが終了するまでは ここへ香月が来るコトは無い。
 その状況に、拓はほんの少しホッとしていた。
 あの日、幼い頃の香月のコトを思うと辛く悲しくなって つい香月を抱き寄せてしまったけれど、今思うと教師の行動としては あまりにも行き過ぎていたような気がして、顔を合わせづらいと思っていた。
 それに、突然あんなことをされて香月がどう思っただろうと考えると、正直 会うのが怖かった。
 だから偶然とは言え、あの日が金曜日で 週明けからが準備週間であったコトに拓は心底感謝したい気分なのだ。

(今 逃げたところで無かったコトにはならないけど、時間が過ぎるコトで多少はいろんな思いも和らぐと思うんだけどな…甘いか?)

 ともすれば、今までの関係が総て壊れてしまう結果を招きかなねい行動に出てしまったコトを拓はかなり後悔しているけれど、やってしまったコトは仕方ない。
 後は香月の出方を待つしかないと、そう思っている。
 ふと時計に目をやるとちょうど3時間目が終了する頃だった。 時計から窓へ視線を移すのと同時に授業終了のチャイムがなった。
 窓から見える空は晴天で、拓はガラス越しに日差しの差し込む窓辺に近寄ると昇降口の辺りを見下ろした。
 月曜の3時間目、香月のクラスは体育だった。 授業内容はまだサッカーのはずだから、こんな晴天なら間違いなくグラウントに出ているだろう。 先週のように ここで待っていれば香月の姿が見られるはずだ。
 空は青天でも風は吹いているらしく、中庭に植えられた まだ若いコブシの木がすっかり葉を落とした寒々しい姿で、枝を木枯らしに揺さぶれていた。
 今は貧相で寒々しい姿でも、春になれば白い綺麗な花をつけるだろうコブシの若木を眺めていると、地上の方からザワザワと生徒たちの談笑が聞こえて来た。
 その時になって拓は突然思い出した。今と同じように、金曜日にここから香月を見ていたことが、すでに香月に知られていたコトを。

(マズイか…)

 すぐさま窓から離れる。 見たところ、昇降口前を歩いていた生徒の中に香月の姿は無かったから、まだ見つかってはいないだろう。
 そう思うと、少し安堵する。

(少し気をつけないとな…)

 机に戻った拓は、雑用を片付けようとノートパソコンを開いた。
 そして、以降は香月のコトを頭の中から追い出すために四苦八苦しながら、1日を終えたのだった。


 その後の準備週間は悲惨だった。
どんなに頭の中から追い出そうとしても、香月の姿は居座り続け 拓を悩ませた。
 いくら香月との関わりが他の生徒達と比べて深いといっても 教師と生徒であるコトには変わらないし、そこに拓の特別な想いの分を上乗せしたとしても、これ以上の深入りはお互いのためにならないと 拓だって重々承知している。
 はずなのに、気づけば生徒の中に香月の姿を探している自分を 拓は少し疎ましく思っていた。
 
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