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□迷走 Holly Night 第3話
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Y.

 薪の爆ぜる音で 目が覚めた。
 孝輔の肩にもたれて眠っていたはずなのに、ラグの上で横になっていた俺には いつの間にか毛布が掛けられ 頭の下には枕まであった。
 わざわざベッドルームから持ってきてくれたみたいで、隣には同じ状態で眠る孝輔がいた。
 最初から30分で起こす気なんてなかったんだろうな。

「……」

 隣で 安らかな寝息をたてて眠る孝輔の顔をひとしきり眺めてみた。
 思いの外 睫毛が長くて、暖炉の炎の明かりに作られた濃い影が頬に落ちている。 ふと その頬に触ってみたくなったけど、起こすといけないから止めた。 穏やかな寝顔を見ていたら その眠りを守ってあげたくなって、とても起こしたりなんてできない。
 孝輔も、同じように思って 俺を起こさなかったのかな?
 そう思ったら、何だか くすぐったいような思いが込み上げて来て、どうしようもなく嬉しくなった。
 毛布の中で堪えきれずに笑っていたら 眠気は完全に消え失せてしまい、起きるコトにした。
 暖炉の炎の勢いが弱くなっているコトに気づいて、籠から薪を2本取って くべてみた。 暖炉を見たのも初めてだし、当然 薪をくべるのも初めてだから、これでいいのかどうか判らないけど、何もしないよりはマシだろう。
 そのまま火かき棒で炭化した薪を揺すると 火の粉が舞い、炎が大きくなった。

「奏多?」

 不意に名前を呼ばれて振り返ると、いつ起きたのか 孝輔が 掌で顔を擦るようにしながら起き上がった。

「悪ぃ、起こした?」

「いや…平気だ。 お前は いつ起きたんだ?」

「俺も さっき起きたトコ」

 もう一度 薪を揺すった後、火かき棒をフレームに掛けて ラグに戻った。
 眠たげな目をした孝輔の向かいに座ると 毛布と枕の礼を言い終るより先に抱き寄せられる。 それを やんわりと押し返すと訝しげな顔をされた。

「何だよ。 もう、ケーキは残ってないぞ?」

「残ってても食べられないっつの。 そうじゃなくて…」

 押し返したコトで 真向かいに胡坐をかいて座った孝輔の頬に、俺も座ったまま手を伸ばした。

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