すぐ近くだったわけじゃないけどお互いの顔は確認できる程度の距離で、久しぶりに会えた先輩にドキドキしてたら不意に先輩が俺に気づいて笑いかけてきたんだ。
一瞬、俺の後ろに誰かいるのかと思って振り返ったけど、そこには俺一人しかいなくて、先輩の笑顔が俺に向けられたものなんだって信じられない思いに心臓が止まりそうになった。
二人で話をした夏休みの日のコトを、今度は先輩も覚えていてくれたんだ。
でもそんな天にも昇る気持ちとは裏腹に俺にできたのは、自覚できるくらいに真っ赤になった顔でおじぎするのが精一杯だったけど。
我ながら情けない。
もし、あれがルキだったなら、きっと積極的に笑いかけたりして先輩との仲を深める機会に繋げたんだろうな。
って、俺のバカ。
ルキと自分を比べたって仕方ないのに。
でも、こうやって何の進展もできないまま日々を過ごしているうちに、いつかルキに出し抜かれるんじゃないかって思いが俺の中に巣くってる。
見た目はまったく同じな俺達だけに、中身での勝負となると俺は絶対的に不利だ。
今はたぶん俺の方が一歩だけリードしてるかもしれないけど、ルキに本気を出されたらって不安はどうしても拭いきれない。
双子でもルキの方が遥かに人間的魅力を持ってるって、十分すぎるくらい俺は知ってる。
「ユキ、時間いいのか?」
「もう行くよ」
ぐだぐだと埒の開かないコトを考えながら身支度を整えていた俺に兄貴がまた声をかけてきた。
「あのな、忘れてるみたいだけど、お前ら今日、誕生日だろ? おめでとさん」
「え?…あ、今日って12日…」
9月12日は俺とルキが生まれた日。明け方に俺が生まれて、その一時間後にルキが生まれた。
そんな日を忘れてたなんて…。
「やっぱり忘れてたか。昨日、お袋から言われたんだけど今週は仕事が立て込んでるから週末にでもみんなでメシ食いに行こうって」
「別にいいのに…中学生にもなって誕生日のお祝いなんてさ」
思春期らしい反抗的な物言いだって思ったらしい兄貴は、苦笑しながら俺の頭を撫でてきた。完全なる子ども扱いだ。
「普段ほったらかしにしてる罪滅ぼしでもあるだろうからさ、こんな時くらい素直に祝われてやれよ」
口を尖らせる俺を見て兄貴はまだ笑ってる。