南雲先輩のクラスメイトの人に深々とおじぎをすると、後ろ髪引かれる思いで俺はその場からノロノロと立ち去った。
何でだろう。
俺、ものすごくガッカリしてる。
「あ、手紙…」
スクバの中に忘れ去られた手紙のコトを思い出した。
でも、さすがに手紙までは預けられない。俺は無意識に手紙の入ったスクバを、ギュッと抱きしめていた。
ホントはガッカリしてる理由なんて自分でも分かってる。
だって、俺、ここに来たら先輩と会えると思い込んでた。
なのに……
先輩に会えなかった。それだけのコトなのに、俺は本当に、心の底からガッカリしてる。
どうして…?
トボトボと階段を降り切った時、そこが昇降口横の階段だったと気がついた。
フラリと足が昇降口に向う。
いつの間にか俺は、1−Cの下駄箱に貼られたナグモと読める名前を一生懸命探していた。
「…あった!」
下駄箱の真ん中辺り、南雲 太陽≠ニネームがついてる。
ここが先輩の下駄箱。
南雲、ってこういう漢字なんだ。
それにしても太陽≠チてスゴい名前だな。読みはそのままたいよう≠ネのかな?それとも、もっと別の読み方だったりするのかな?
「南の雲と太陽だって。なんか、先輩にピッタリな名前だ」
太陽みたいに優しくて、爽やかに明るく笑う人だったもんな。
クスッと漏れた笑いと一緒に口元が綻んでしまった。
どうして俺はこんなにも先輩が気になるんだろう。たった一回会っただけの、今まで知らない人だったのに。
そうして俺は奇妙な胸の高鳴りと、何故だか淋しくなるような切なさを感じながら、動く事もできずに長いコト高等部の下駄箱の前に立ち続けていた。
――この時の自分の気持ちが何だったのか。俺がそれに気がつくまでに、そう時間はかからなかった――
SymmetryE END
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