それがムカついたから、結有は唇をとがらせてそっぽを向いた。
「あんまり意地悪されると嫌いになるかも」
途端に止んだ笑いの後、祥悟の手が結有の頬を包む。
「それは困るな。 結有に嫌われたら生きていけない」
「そういうの、ワザとらしいから」
「本気だよ。 何度も言ったろ? これでも一途なんだって」
頬に触れた手がそっと結有の顔を起こし、覗き込むように視線を捉えられた。
好きな子しか抱かない。
いつか聞いた祥悟の言葉がリフレインする。
結有が祥悟の存在を知るより以前に彼が結有のコトを好きだったのなら、やはりそれは嘘ではなかったのだろう。
「結有だけだ、こんな気持ちになるのは。 これからもずっと、それは変わらない」
痛いくらいに見つめてくる祥悟の瞳から目を逸らさずに見つめ返し、結有は呟く。
「俺、やっぱり真実の愛とか、そういうの分からないし、いらない…」
祥悟の瞳は結有の言葉に揺らぐコトもなく見つめ続けてくる。
結有は頬に添えられた祥悟の手に自分の手を重ねると、きゅっと握りしめた。
「欲しいのは祥悟さんだけだから」
途端に祥悟が破顔する。
それにつられて結有も笑うと、柔らかくて甘いキスが降りてくる。
祥悟の優しい腕に抱きしめられて、結有は自ら足を開いた。
満たされた幸福感が結有をいっぱいにして、それでも足りなくてあふれ出てしまいそうだ。
信じられるとか、信じられないとか、そんなコトばかりに拘ってきた。
向けられていたすべての愛情に気づきもせず、両手で耳を塞いで生きてきた。
結有のその手を取り払ってくれたのは祥悟だ。
そうして開かれた結有の耳に、祥悟の囁きが聞こえたような気がする。
「愛しているよ」と。
でも空耳だったのかもしれない。
それとも、それは結有自身の声だったのか。
どちらでもいい、と結有は思う。
自分が祥悟を愛しているという真実は何一つ揺らぎはしないのだから。
与えられる快感に身を震わせながら手に入れた大切な人にすべてを預けて、霞む意識の中で結有は淡く微笑んだ。
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