幸せな夢想の中に浸りこんでいたら、先輩の俺を呼ぶ声が聞こえた。
どこか遠いところから聞こえたみたいなその声に顔を上げると、何か言いたげな顔をした先輩が俺を見た後、辺りをチラリと見渡した。
「なぁ、詢…部屋が妙に片付いてるってさっきも言ったけど、これまさか引っ越し準備じゃないよな?」
言われてハッとする。
そう言えば部屋の掃除と兼ねて、さっきまで荷物の整理をしていたんだ。
寝室に広げっ放しになっているいくつものダンボールを思い出して青くなる。
「それは…」
「やっぱりか…お前はどうしてそう先走るんだ」
呆れたようにため息を吐かれたけど、それも仕方ないかもしれない。
「だいたいお前は、俺が出世に目がくらんで見合いを受けるかもしれないとか考えてたんだよな?」
「そ、そこまでは…」
「傷つくなぁ…おまけにさっきは泣かされたし? 泣いたのなんて小学生以来だぞ、俺」
「う…」
言葉に詰まった途端、腕を引かれた。
「というコトで詢には責任をとってもらう」
「え?」
「当然だろ? お前に拒否権はない」
そのまま寝室へと引きずられて行く。
このパターンはいつものだと気づいて狼狽えた。
「ちょ、待って。 そっちの部屋は――」